由緒ある水源が多い【青森県の名水】5カ所をご紹介~名水百選より~
本州で最も北に位置する地、青森県。
今回ご紹介するのは、津軽藩の時代から現在に至るまで多くの人々に親しまれてきた「富田の清水(とみたのしつこ)」、平安時代初期を生きた武将が目の病気を治すのに使ったと言われる「渾神の清水(いがみのしつこ)」、長い年月を経て神聖な地として守られてきた歴史を持つ「沼袋(ぬまぶくろ)の水」、世界自然遺産にも指定された白神山地の大自然の中でコバルトブルーに美しく輝く「沸壺池の清水(わきつぼいけのみず)」、古くから人々の食と農を支えてきた「湧きつぼ」の5カ所です。
以下の文章では、歴史ある5カ所の名水について順にご紹介していきます。
目次
昭和の名水百選
富田の清水
読みがな:とみたのしつこ。
りんごの生産が盛んで、湧水が豊富な弘前市に「富田の清水」があります。
この地域は江戸時代に津軽藩(つがるはん)の城下町として栄え、茶屋ができるなど、古くから水をめぐる商売が行われてきました。現在、弘前市には紙漉町(かみすきちょう)という地名がありますが、これは藩主の津軽信政が弟子を招いて和紙の紙すきを行わせたことに始まります。
この水は明治時代、明治天皇が当地を訪れた時に水が茶や料理に使われたことから、格式が高い清水としても知られてきました。
現在、郵便局と稲荷神社の近くの水源には6つの水槽があり、水が流れる上流の方から飲用、洗面、漬物洗い、洗濯のすすぎという順番で使い方が分けられており、主婦たちの生活とコミュニケーションの場として清水が利用されています。
名水百選選抜総選挙
- 観光地として素晴らしい名水部門 エントリー
種類
湧水
所在地・アクセス
青森県弘前市
- 東北自動車道「大鰐弘前IC」から「富田の清水」まで車で約17分(9.3km)。
水質データ
水温 | 16.1℃ |
---|---|
硬度(mg/L) | 68.8(中硬水) |
水素イオン濃度(pH) | 5.8 |
電気伝導度(EC) | 273.6 |
塩化物イオン(Cl–) | 27.9 |
硝酸イオン(NO3–) | 16.6 |
硫酸イオン(SO42-) | 28.0 |
重炭酸イオン(HCO3–) | 45.1 |
ナトリウムイオン(Na+) | 19.1 |
カリウムイオン(K+) | 4.8 |
マグネシウムイオン(Mg2+) | 6.8 |
カルシウムイオン(Ca2+) | 16.4 |
二酸化ケイ素(SiO2) | 182.4 |
渾神の清水
読みがな:いがみのしつこ。
奈良時代から平安時代初期にかけて、桓武天皇(かんむてんのう)から征夷大将軍(せいいたいしょうぐん)の地位に任命された坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)という武将がいました。
「竹館村誌」には、坂上田村麻呂が蝦夷(えぞ)を討つ時に目の病気にかかり、神のお告げで泉に案内され、その水を自分の目にかけたという記録があります。その伝説がある「渾神の清水」は古くから由緒ある清水として知られてきました。
その清水がある平川市は弘前市の東の隣にあり、水は山に登る途中の鳥居とほこらの下から湧き出しています。現在ではこれが現地の農業用水として使われ、地元住民があたりの環境整備に努めるなどして清水がきれいに保たれています。
種類
湧水
所在地・アクセス
青森県平川市
- 東北自動車道「大鰐弘前IC」から「渾神の清水」まで車で約10分(6.1km)。
水質データ
水温 | 14.0℃ |
---|---|
硬度(mg/L) | 22.7(軟水) |
水素イオン濃度(pH) | 6.8 |
電気伝導度(EC) | 112.1 |
塩化物イオン(Cl–) | 7.8 |
硝酸イオン(NO3–) | 1.0 |
硫酸イオン(SO42-) | 3.2 |
重炭酸イオン(HCO3–) | 38.4 |
ナトリウムイオン(Na+) | 9.2 |
カリウムイオン(K+) | 2.4 |
マグネシウムイオン(Mg2+) | 2.2 |
カルシウムイオン(Ca2+) | 5.5 |
二酸化ケイ素(SiO2) | 130.0 |
平成の名水百選
沼袋の水
読みがな:ぬまぶくろのみず。
十和田市にある「沼袋の水」は、十和田湖から流れる奥入瀬川(おいらせがわ)周辺の平地と、日本の疎水百選(そすいひゃくせん)に選定されている稲生川(いなおいがわ)周辺の台地の間に位置しています。
水田に囲まれた林の中にその湧水があり、周囲の樹木はスギ、ビバ、ブナなどが、花はヤマザクラ、モミジ、ツツジ、アジサイなどが、鳥はカワセミ、セキレイ、カモなどが、用水路にはコイ、ベニマス、サワガニ、イモリなどが見られます。
こうした美しい自然と豊かな生命に囲まれた環境にある一方、「沼袋の水」は室町時代から明治時代に至るまで占いを行う地として利用されてきました。このことから、「沼袋の水」は美的であると同時に神秘的な意味を持つ湧水群であったことがうかがえます。
種類
湧水
所在地・アクセス
青森県十和田市
- 百石道路・第二みちのく有料道路「下田百石IC」から「大沼神社」まで車で約40分(27.2km)。
水質データ
水温 | 14.1℃ |
---|---|
硬度(mg/L) | 72.2(中硬水) |
水素イオン濃度(pH) | 6.8 |
電気伝導度(EC) | 211.1 |
塩化物イオン(Cl–) | 26.6 |
硝酸イオン(NO3–) | 18.1 |
硫酸イオン(SO42-) | 18.7 |
重炭酸イオン(HCO3–) | 77.5 |
ナトリウムイオン(Na+) | 14.6 |
カリウムイオン(K+) | 2.7 |
マグネシウムイオン(Mg2+) | 4.5 |
カルシウムイオン(Ca2+) | 21.8 |
二酸化ケイ素(SiO2) | 不明 |
沸壺池の清水
読みがな:わきつぼいけのみず。
西津軽郡深浦町にある「沸壺池の清水」は、世界自然遺産である白神山地のふもとの大自然から湧き、ブナやナラの原生林とともに育まれた名水です。1985(昭和60)年、「青森県私たちの名水」に指定されました。
沸壺池は津軽国定公園にある十二湖の青池に位置しており、湖がコバルトブルーに光り、神秘的な雰囲気がただよっています。その様子をながめたい場合は整備されたデッキがおすすめで、湧水は大きなカツラの大木の根元からこんこんと清らかに湧き出ています。
町はこのきれいな湧水を残すため、森林管理署や青森県、地域の人々とともに定期的にパトロールをしたり、たおれそうな危険な木などを調べるなどしています。
種類
湧水
所在地・アクセス
青森県西津軽郡深浦町
- 秋田自動車道「能代南IC」から「青池」まで車で約1時間50分(62.8km)。
水質データ
水温 | 9.5℃ |
---|---|
硬度(mg/L) | 85.5(中硬水) |
水素イオン濃度(pH) | 7.4 |
電気伝導度(EC) | 222.0 |
塩化物イオン(Cl–) | 16.4 |
硝酸イオン(NO3–) | 0.4 |
硫酸イオン(SO42-) | 5.9 |
重炭酸イオン(HCO3–) | 97.6 |
ナトリウムイオン(Na+) | 9.8 |
カリウムイオン(K+) | 3.2 |
マグネシウムイオン(Mg2+) | 7.5 |
カルシウムイオン(Ca2+) | 22.2 |
二酸化ケイ素(SiO2) | 10.0 |
湧つぼ
読みがな:わきつぼ。
北津軽郡中泊町(なかどまりまち)の「湧きつぼ」は県立芦野池沼群公園(あしのぬまぐんこうえん)の中にあり、昔から稲作になくてはならない灌漑(かんがい)用水として現在に至るまで利用されてきました。
湧き出た清水はため池に注ぎ、水辺の植物が発生することで、結果的にサギなどの渡り鳥が来るようになっています。
ブナやビバなどの樹木に囲まれた大自然にありながら、駐車場から歩いてすぐ水源にたどり着けるアクセスの良さも、林を歩く人に喜ばれるポイントの一つになっています。また、毎年10月頃から次の年の春の稲作が始まる5月まで、貯水(ちょすい)が原因でため池の水位が上がって水源が沈んでしまうため、湧水の状態が見たい人は6~9月に訪れるのが良いでしょう。
種類
湧水
所在地・アクセス
青森県北津軽郡中泊町
- 東北自動車道「浪岡IC」から「大沢内ため池」まで車で約48分(33.2km)。
水質データ
水温 | 10.0℃ |
---|---|
硬度(mg/L) | 33.4(軟水) |
水素イオン濃度(pH) | 7.0 |
電気伝導度(EC) | 123.1 |
塩化物イオン(Cl–) | 28.1 |
硝酸イオン(NO3–) | 0.1 |
硫酸イオン(SO42-) | 5.7 |
重炭酸イオン(HCO3–) | 46.4 |
ナトリウムイオン(Na+) | 12.9 |
カリウムイオン(K+) | 2.3 |
マグネシウムイオン(Mg2+) | 4.2 |
カルシウムイオン(Ca2+) | 6.6 |
二酸化ケイ素(SiO2) | 不明 |
青森県の名水百選マップ
- (上側)湧つぼ
- (下側左から1番目)沸壺池の清水
- (下側左から2番目)富田の清水
- (下側左から3番目)渾神の清水
- (下側左から4番目)沼袋の水