雪どけが何十年もかけて地下を旅する【採水地の水】富士吉田〜山梨県〜
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山梨県富士吉田市(ふじよしだし)は、富士山の北の麓に広がる高原の町です。江戸時代には富士講の登山者を迎える御師(おし)の町として栄え、今も北口本宮冨士浅間神社から吉田口登山道が山頂へ向かいます。この町の水道は、富士山の地下水を深井戸で汲み上げたもので、隣の忍野村に湧く名水百選・忍野八海も、同じ北麓の地下水が地表に顔を出したものです。
本記事は、富士吉田を「採水地」として見たときの地質・水系・歴史を、富士吉田市の水道資料、環境省の名水百選ポータル、忍野村・観光協会の公式資料、地学雑誌・地下水学会誌の査読論文を出所にして整理する「土地と水の記事」です。宅配水として富士吉田の地下水を届けている会社の公表値は、記事の後半で「企業公式」として別枠にまとめます。
結論:富士吉田の水を3行で
- ・富士吉田市の水道水源は25か所で、うち22か所は地下50〜150mの深井戸、2か所は湧水。最大で1日4万m³を取水でき、硬度の平均は88mg/Lです(富士吉田市)
- ・隣村の忍野八海(昭和の名水百選)は「富士山の地下水が比較的水を通しにくい溶岩と溶岩の間を何十年もの歳月をかけ伏流し湧き出ている」水で、下流の都留市には十日市場・夏狩湧水群(平成の名水百選)があります(環境省)
- ・富士山の湧水の滞留時間は査読論文で18〜39年、新富士火山域で30〜40年未満と報告されており、いま汲まれている水は数十年前の雨と雪です
以上は富士吉田市「ふじよしだの水」、環境省の名水百選ポータル、以下で引用する査読論文の記載にもとづきます(いずれも2026年9月調査)。以下で順に見ていきます。

富士吉田の水はどこから来るか
25か所の水源、22本の深井戸
富士吉田市上下水道工務課の資料「ふじよしだの水」は、市民が飲む水道水の水源を次のように説明しています。「わたしたちの飲んでいる水道の水は、全部で25箇所あり、22箇所が地下50m〜150mに直径30cmから35cmの太さのボーリングをして深井戸として水を汲み揚げており、1箇所は29mの浅井戸、そして、2箇所は湧水(わき水)」。全体で「最大で40,000立方メートル/日の水を取水することが出来ます」(富士吉田市「ふじよしだの水」/2026年9月調査)。
同じ資料は、この水の成り立ちを「富士山に降った雨や雪は地下に浸み込み、溶岩や、砂などの天然のろ過装置を通ることにより、きれいになり」、「何年・何十年という年月をかけて変化していきます」と述べ、硬度は平均88mg/Lと記しています(同)。富士吉田では、町の水道そのものが「富士山の地下水を深井戸で汲む」という、宅配水と同じ形をしています。
忍野八海へ、そして桂川へ
富士吉田の地下を通った水の一部は、隣の忍野村で地表に戻ります。環境省の名水百選ポータルは忍野八海を、「富士山麓に降った雪や雨が富士山内で伏流し、やがて清冽な水となって湧き出た八つの湧水池」で「古くより国の天然記念物に指定されている」と説明し、水質については「富士山の地下水が比較的水を通しにくい溶岩と溶岩の間を何十年もの歳月をかけ伏流し湧き出ているため、水質はすばらしい」と記しています(環境省 名水百選ポータル「忍野八海」/2026年9月調査)。忍野村は、八つの池(出口池・お釜池・底抜池・銚子池・湧池・濁池・鏡池・菖蒲池)が「富士山の伏流水に水源を発する湧水池」であり、世界遺産富士山の構成資産でもあると紹介しています(忍野村「忍野八海」/2026年9月調査)。
忍野の湧水は桂川(相模川水系)となって富士吉田市を経て東へ流れ、都留市に至ります。都留市の十日市場・夏狩湧水群(平成の名水百選)について、環境省ポータルは「多数の湧出地点を持ち、極めて豊富な水量と良質な水質を誇る湧水群」で、湧水の南側には「富士山から流出した溶岩台地」が広がり、ミネラルウォーターへの利用のほか、特産の水掛菜の栽培やヤマメ・鱒の養殖が盛んだと記しています(環境省 名水百選ポータル「十日市場・夏狩湧水群」/2026年9月調査)。富士吉田・忍野・都留は、同じ溶岩台地の上で同じ地下水を分け合う、ひとつながりの土地です。地下水・湧水・伏流水という言葉の違いは、地下水・湧水・伏流水の違いで環境省と国土交通省の定義をもとに整理しています。

溶岩の層が水を運ぶしくみ
溶岩と溶岩の間を流れる水
富士山の地下水は、噴火のたびに積み重なった溶岩の層の中を流れています。富士山全体の地下水年代を整理した地学雑誌の論文は、富士山の斜面に年間およそ20億立方メートルの降水があり、山麓の多くの湧水は完新世の溶岩流に含まれる被圧地下水に由来すること、地下水年代の測定では新富士火山の領域で30〜40年未満、古富士火山の領域で60年以上という異なる滞留時間が示されていることを報告しています(戸崎裕貴・浅井和由「富士山の地下水年代」地学雑誌 126巻1号・2017年)。
山麓湧水の年代を³H/³He法で測った地下水学会誌の論文は、4地点で「18〜39年の滞留時間が得られた。この年代値は、富士山の水文地質特性や過去の研究で³⁶Cl、CFCs、SF₆から見積もられた年代と調和的である」と述べています(浅井和由・輿水達司「富士山の山麓湧水の³H/³He年代」地下水学会誌 61巻4号・2019年)。環境省ポータルの「何十年もの歳月」という表現と、査読論文の数十年という年代は、同じことを別の言葉で言っています。
北麓の地下水面と火山由来の成分
北麓の地下水を対象にした研究もあります。地下水学会誌に掲載された論文は、河口湖周辺地域の地下水に含まれるフッ素が「富士火山堆積物由来のフッ素であると考えられる」とし、河口湖南側の地下水面標高が800〜900mの地点で地下水面の勾配を調べています(尾形正岐・小林浩・輿水達司「富士山北麓地域の地下水のフッ素濃度と地下水面について」地下水学会誌 56巻1号・2014年)。地下水に溶けている成分の一部は、火山そのものに由来します。宅配水各社が公表するバナジウムの値(後述)も、富士山の玄武岩に含まれる成分として説明されるのが一般的です。産業技術総合研究所は、富士山周辺の水資源・水環境を見える化したマップで、100年にわたる地下水調査・研究の歴史と、地下水が涵養された標高を推定できることを紹介しています(産業技術総合研究所「富士山周辺の水資源・水環境を見える化したマップ」2016年)。
言えること・言えないこと
公的資料と査読論文から言えるのは、①富士吉田市の水道は地下50〜150mの深井戸で富士山の地下水を汲んでいる、②その水は溶岩の層の中を数十年かけて流れ、忍野八海などで湧く、③北麓の地下水面は河口湖南側で標高800〜900m付近にある、という3点です。一方、宅配水の採水井戸がどの溶岩層のどの深さにあるかは、企業の公表以外に出所がありません。本記事では後述の「企業公式」の枠に分けて示し、地層の同定は断定しません。

富士講の町、御師の町
北口本宮冨士浅間神社と吉田口登山道
富士吉田は、ふじよしだ観光振興サービスの案内によると「古くから富士講の参拝客を迎えてきた信仰の歴史が息づく街」です。市街地の南にある北口本宮冨士浅間神社は「富士山と共に1900年以上の歴史を重ねてきた富士吉田随一の浅間神社」で、世界遺産富士山の構成資産の一つ。平成29年には拝殿などが新たに重要文化財に指定され、計11棟が重要文化財になっています。参拝前に清める手水舎の水は「富士山の冷たい雪解け水」だと案内されています(一般財団法人ふじよしだ観光振興サービス「北口本宮冨士浅間神社」/2026年9月調査)。
この神社を起点に、吉田口登山道が富士山頂へ向かいます。富士講の人々は江戸から歩いてこの町に入り、御師の家に泊まって身を整え、翌朝、山へ登りました。環境省ポータルは忍野八海について、富士講の開祖・長谷川角行の富士八湖修業になぞらえ、「八海巡拝が大正末期まで盛んに行われていた」と記しています(環境省 名水百選ポータル「忍野八海」)。富士山に登る前に、富士山の水で身を清める——北麓の水は信仰の道具でもありました。
水を守る「定式」
下流の都留市には、水を守る行事が300年続いています。環境省ポータルによると、十日市場・夏狩湧水群では「定式(じょうしき)」と呼ばれる用水路等の保全活動が、寛永13年の谷村大堰完成以降、毎年4月初旬に各村々で用水路の改修や川底さらいを一斉に行う都留市特有の行事として受け継がれ、現在は毎年9,000人規模の市民総参加の行事になっています(環境省 名水百選ポータル「十日市場・夏狩湧水群」)。富士山の水は、湧くだけでは町の水になりません。それを引き、守り続けてきた人の営みが、北麓の水の歴史です。

同じ水系の名水百選
忍野八海(忍野村・昭和の名水百選)
富士吉田市の東に隣接する忍野村の忍野八海は、環境省が昭和60年に選定した名水百選で、国の天然記念物です。環境省ポータルには、湧池の水流で水車小屋の水車が回ること、毎年8月8日に忍野八海祭りが行われること、地元住民やボランティア団体の清掃活動と忍野村教育委員会の保全活動が続いていることが記されています(環境省 名水百選ポータル「忍野八海」)。忍野八海の歩き方は忍野八海と富士の湧水を巡る山梨の旅で、山梨県内の名水は山梨県の名水でまとめています。
十日市場・夏狩湧水群(都留市・平成の名水百選)
桂川を下った都留市の十日市場・夏狩湧水群は、平成20年選定の平成の名水百選です。湧水群の一つ永寿院の山号「水源山」は境内に湧水があることから名づけられ、湧水の南側には富士山から流出した溶岩台地の上に山梨原遺跡(夏狩地区)が広がります(環境省 名水百選ポータル「十日市場・夏狩湧水群」)。同じ桂川の流域、同じ溶岩台地の湧水として、富士吉田の地下水と同じ流れに属します。
なお環境省は、名水百選について「選定された名水は飲用に適することを保証するものではありません」と明記しています。名水百選の枠組みは名水百選とはで解説しています。
公表されている水質(企業公式)
富士吉田市を採水地とする宅配水について、各社が公式サイトで公表している数値を整理します。以下はすべて企業の公表値であり、当サイトが測定したものではありません。数値は2026年9月6日に各社公式サイトで確認しました。
| 社名・商品名 | 採水地(公式記載) | 硬度 | pH | その他の公表値 |
|---|---|---|---|---|
| プレミアムウォーター「富士吉田」 | 山梨県富士吉田市(標高920m・地表水位80mと記載) | 25mg/L | 8.3 | バナジウム91µg/L、シリカ34mg/L、ナトリウム0.68mg、カルシウム0.64mg、マグネシウム0.22mg、カリウム0.12mg(100mlあたり) |
| フレシャス「FRECIOUS富士」 | 山梨県富士吉田市(標高約1,000m・井戸273mと記載) | 22mg/L | 8.3 | バナジウム85µg/L、ナトリウム0.62mg、カルシウム0.54mg、マグネシウム0.21mg、カリウム0.08mg(100mlあたり) |
| ラ・ホールディングス「富士山の源流水」 | 山梨県富士吉田市 | 28mg/L | 8.4 | バナジウム88µg/L、シリカ31mg/L、炭酸水素イオン37mg/L、サルフェート3.0mg/L |
3社の公表硬度が22〜28mg/Lに集まる一方、富士吉田市の水道水の平均硬度は88mg/Lです。同じ市内の富士山の地下水でも、井戸の深さや位置、通ってきた溶岩層によって溶け込むミネラルの量は変わります。「富士山の水」と一言でくくれない理由がここにあります。硬度の計算方法は硬度とは、軟水・硬水の区分は軟水と硬水の違い、宅配水各社の横並びは宅配水5社の硬度一覧をご覧ください。
この水源の水を家で飲むなら
富士吉田市を採水地とする宅配水は、上の表の3社です。このうち当サイトが提携しているのはプレミアムウォーターです。公式サイトによると「富士吉田」は山梨県富士吉田市で採水した天然水で、公表値は硬度25mg/L・pH8.3、バナジウム91µg/L・シリカ34mg/Lです(2026年9月6日確認)。届く産地は届け先の地域によって決まる仕組みのため、富士吉田の水を希望する場合は申込前に公式サイトで配送産地を確認してください。
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※料金・契約条件・配送産地は変わることがあります。最新の内容は公式サイトでご確認ください。当サイトは上記リンク経由の申込に対して報酬を受け取ることがあります。
プレミアムウォーターの料金と契約条件はプレミアムウォーターとはで、他社との比較はウォーターサーバー10社比較で整理しています。
まとめ
- ・富士吉田市の水道は25か所の水源(深井戸22・浅井戸1・湧水2)から最大4万m³/日を取水し、硬度の平均は88mg/Lです
- ・富士山の地下水は溶岩の層の中を数十年かけて流れ、査読論文は山麓湧水の滞留時間を18〜39年、新富士火山域で30〜40年未満と報告しています
- ・隣村の忍野八海(昭和の名水百選)と下流の十日市場・夏狩湧水群(平成の名水百選)は、同じ桂川流域・同じ溶岩台地の湧水です
- ・北口本宮冨士浅間神社は世界遺産構成資産で重要文化財11棟。富士講の登山者は御師の町で身を整えて吉田口登山道を登りました
- ・都留市では300年続く保全行事「定式」が湧水と用水路を守っています
- ・宅配水3社の公表硬度は22〜28mg/L(企業公式)で、市の水道水より低い軟水です
出典
一次資料(政府機関・公的機関の公表資料および査読論文)。リンクの到達性は2026年9月6日に確認しました。
- ・富士吉田市 上下水道工務課|ふじよしだの水|水源25か所(深井戸22・地下50〜150m・浅井戸1・湧水2)、最大4万m³/日、硬度平均88mg/L、地下水の成り立ちの根拠
- ・環境省|名水百選ポータル 忍野八海(山梨県忍野村)|溶岩と溶岩の間を何十年もかけて伏流する湧水、国の天然記念物、水車小屋、忍野八海祭り、富士講の八海巡拝の根拠
- ・環境省|名水百選ポータル 十日市場・夏狩湧水群(山梨県都留市)|溶岩台地、水掛菜・養殖・ミネラルウォーターへの利用、「定式」の保全行事、水源山・山梨原遺跡の根拠
- ・忍野村|忍野八海|八つの池の名称、富士山の伏流水を水源とすること、天然記念物・世界遺産構成資産の根拠
- ・戸崎裕貴・浅井和由(2017)|富士山の地下水年代|地学雑誌 126巻1号|DOI: 10.5026/jgeography.126.89|年間約20億m³の降水、完新世溶岩の被圧地下水、新富士域30〜40年未満・古富士域60年以上の根拠(査読論文)
- ・浅井和由・輿水達司(2019)|富士山の山麓湧水の³H/³He年代|地下水学会誌 61巻4号|DOI: 10.5917/jagh.61.291|山麓湧水4地点で18〜39年の滞留時間の根拠(査読論文)
- ・尾形正岐・小林浩・輿水達司(2014)|富士山北麓地域の地下水のフッ素濃度と地下水面について|地下水学会誌 56巻1号|DOI: 10.5917/jagh.56.35|河口湖周辺の地下水のフッ素が富士火山堆積物由来と考えられること、地下水面標高800〜900mの根拠(査読論文)
- ・産業技術総合研究所|富士山周辺の水資源・水環境を見える化したマップ(2016年7月15日)|100年にわたる地下水調査の歴史、涵養標高の推定、バナジウム濃度の記述の根拠
- ・山梨県富士山科学研究所|土隆一「富士山の地下水・湧水」(『富士火山』2007・PDF)|北麓の地下水・湧水に関する総説(背景として参照。本文の数値は本記事で使っていない)
- ・環境省|名水百選ポータル|「選定された名水は飲用に適することを保証するものではありません」の注記の根拠
参考サイト
観光情報と企業公式の公表値(各リンクは2026年9月27日確認)
- ・一般財団法人ふじよしだ観光振興サービス|北口本宮冨士浅間神社|1900年以上の歴史、世界遺産構成資産、重要文化財11棟、手水舎の雪解け水の記述
- ・一般財団法人ふじよしだ観光振興サービス|富士吉田観光ガイド|富士講の参拝客を迎えてきた信仰の町、吉田口登山道の記述
- ・プレミアムウォーター|富士吉田(企業公式)|採水地(山梨県富士吉田市)・硬度25mg/L・pH8.3・バナジウム91µg/L・標高920mの公表値
- ・フレシャス|FRECIOUS富士(企業公式)|採水地(富士吉田市・標高約1,000m・井戸273m)・硬度22mg/L・pH8.3・バナジウム85µg/Lの公表値
- ・ラ・ホールディングス|富士山の源流水(企業公式)|採水地(富士吉田市)・硬度28mg/L・pH8.4・バナジウム88µg/Lの公表値
画像クレジット
この記事で使っている写真の出所です。CC BY/CC BY-SA の写真は、ライセンスの条件に従って撮影者・ライセンス名・元ファイルへのリンクを表示しています。
- ・アイキャッチ背景(富士吉田市・市街と富士山):撮影:lumoplank/Wikimedia Commons/CC0
- ・本文1枚目(富士吉田市・新倉山浅間公園):撮影:Supanut Arunoprayote/Wikimedia Commons/CC BY 4.0
- ・本文2枚目(忍野村・忍野八海):撮影:Suikotei/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0
- ・本文3枚目(富士吉田市・北口本宮冨士浅間神社):撮影:さかおり/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
- ・本文4枚目(忍野村・忍野八海):撮影:663highland/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0
※アイキャッチ画像の都道府県の地図輪郭は、「国土数値情報(行政区域データ)」(国土交通省)を加工して作成しています。