山梨県の形のシルエットと、河口湖畔から見た富士山とピンクのススキの原

一つの町に二つの水系【採水地の水】富士河口湖〜山梨県〜

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山梨県富士河口湖町(ふじかわぐちこまち)は、富士山の北麓に広がる町です。富士五湖のうち河口湖・西湖・精進湖・本栖湖の四つがこの町に属し、青木ヶ原樹海も町域にかかります。町の水道は、水源のほとんどを地下水に頼っています。

この町を「採水地」として見たときにいちばん面白いのは、同じ町の中で、由来のまったく違う二つの地下水が配られていることです。南の富士山から来る水と、北の御坂(みさか)山地から来る水。両者は水質の型もミネラルの量も違います。本記事は、町の水道水源そのものを調べた査読論文と、富士河口湖町水道課の公表資料を出所にして、この土地と水の関係を整理します。

結論:富士河口湖の水を3行で

高台から見た河口湖。対岸の奥に御坂山地の稜線が連なる
河口湖と、その北側に連なる御坂山地。町の水は、正面の富士山側と、この奥の山側という由来の違う二つの地下水から取られています。写真:663highland(Wikimedia Commons・CC BY-SA 4.0)

富士河口湖の水はどこから来るか

富士山の北斜面を降りてくる水

町の中心部にあたる船津・小立・勝山地区を給水区域とするのが、富士河口湖町上水道事業です。2017年度には約2万人に1日あたり約15,000立方メートルが給水されました。この事業がもつ19の水源(船津9・小立6・勝山4)は、いずれも富士山の北斜面に位置し、すべて富士山系の地下水を深井戸からくみ上げています(山本・中村 2020)。

歴史も古く、前身の河口湖南水道事業は、1926年に船津・小立・勝山の3村が共同で設立した河口湖南水道組合に始まります。上水道としては甲府市に次いで県内2番目に古いと報告されています(同)。かつては湖畔の井戸から水を得るしかなかった土地で、地下水資源の獲得に踏み切った判断が、いまの水道につながっています。

高台から見下ろした富士河口湖町の市街地。奥に河口湖と紅葉した山並みが広がる
河口湖の南岸に開けた市街地。町役場のあるこのあたりは標高850m前後の平坦な土地で、暮らしの水は深井戸からくみ上げた地下水です。写真:Guilhem Vellut from Annecy, France(Wikimedia Commons・CC BY 2.0)

御坂山地から来る水

いっぽう、河口湖の北側から東側にあたる大石・河口・浅川地区は、富士河口湖町河口湖簡易水道事業の給水区域です。2017年度には約4,000人に1日あたり約2,700立方メートルが給水されました。この11水源はいずれも御坂山地の中にあり、うち御坂第1水源・西沢水源・若彦水源の3か所は湧水から取水しています(同)。町の北側は標高約1,500〜1,800メートルの御坂山地に囲まれており、富士山とは成り立ちの違う山です。

町にはこのほか、西湖周辺などを給水する足和田簡易水道事業(約1,400人・1日あたり約1,800立方メートル・9水源)と、精進・本栖・富士ヶ嶺地区を給水する上九一色簡易水道事業(約1,000人・1日あたり約1,200立方メートル・6水源)があります(同)。ひとつの町で四つの水道事業が動いている形です。

西湖の西端から望む湖面と、奥にそびえる富士山
西湖。富士五湖のうち四つが富士河口湖町にあり、いずれも国の名勝に指定されています。写真:Amarpreet.singh.in(Wikimedia Commons・CC BY-SA 3.0)

ひとつの町に、ふたつの水系

水の「型」が分かれる

水に溶けている成分の組み合わせを見ると、多くの水源はCa-HCO₃型でした。これは表流水や、地下にとどまっている時間が比較的短い地下水によく見られる型で、富士山では新富士火山の噴出物を帯水層とする地下水の特徴とされています(山本・中村 2020/平野ほか 2014)。

ただし全部が同じではありません。総合公園水源・東見返し水源・三階水源・西蛇石水源・本栖水源・富士ヶ嶺第3水源・富士見水源はNa,Ca-HCO₃型、東京良原第1水源と皮籠石水源はNa-HCO₃型に分類されました。Na-HCO₃型は地下にとどまっている時間が長い水によく見られる型です。標高が下がるほどHCO₃⁻の濃度が上がる傾向も見られ、低い場所の井戸ほど水が地下で過ごした時間が長いことが示されています(同)。

いっぽう御坂山地の水を使う御坂第1水源は、Ca²⁺とSO₄²⁻がとくに多いCa-SO₄型でした。電気伝導度も391µS/cmと、ほかの水源(51〜184µS/cm)より際立って高い値です。論文は、御坂山地をつくる基盤の岩に含まれる石膏・硬石膏が溶けた影響を考えています(同)。同じ町の中で、これだけ性格の違う水が並んでいます。

言えること・言えないこと

高台から見下ろした精進湖。奥に御坂山地の山並みが連なる
精進湖と、その奥に連なる御坂山地。富士五湖のうち四つがこの町にあり、水の由来も富士山側と御坂山地側に分かれます。写真:Alpsdake(Wikimedia Commons・CC BY-SA 3.0)

湖と溶岩の町の暮らし

四つの湖と樹海

富士河口湖町は2003年11月15日に河口湖町・勝山村・足和田村が合併して生まれ、2006年3月1日に旧上九一色村南部の3地区が加わりました。面積は158.51平方キロメートル、人口は約2万6千人です。富士五湖のうち四つの湖(河口湖・西湖・精進湖・本栖湖)が町域にあり、いずれも国の名勝、青木ヶ原樹海は国の天然記念物です。年間約460万人が訪れる景勝地でもあります(山本・中村 2020)。

地質は場所によってはっきり違います。富士山麓側は第四紀の活火山である富士山の噴出物に広く覆われ、御坂山地は主に中新統の泥岩や火山岩と、そこに入り込んだ石英閃緑岩からできています(同)。水の性格が二つに分かれるのは、この足もとの違いがそのまま出ているためです。

寒暖差の大きい高原の気候

気候は、夏は過ごしやすく冬の寒さが厳しい高原型です。河口湖特別地域気象観測所の平年値(1991〜2020年)は、気温11.0℃、日照時間2,014.2時間、年降水量1,585.9ミリです(気象庁「過去の気象データ検索」・2026年10月2日確認)。県内でもっとも降水量が少ない甲府盆地から八ヶ岳山麓(1,000〜1,200ミリ)より多いものの、富士山麓の中では比較的降水量が少ない地域とされています(山本・中村 2020)。降った量がとくに多いわけではないのに水に恵まれているのは、富士山の地下に水がたくわえられているからです。

公表されている水質(町の水道水源)

山本・中村(2020)が2016年7月に町の水道水源を調べた結果です。個々の水源名ではなく、全体の範囲として示します。

項目値
水温9〜16℃(湧水・伏流水を使う3水源はやや高く14℃超)
pHおおむね7〜8。富士山の北・北西斜面の一部で弱アルカリ性
電気伝導度51〜184µS/cm(御坂第1水源のみ391µS/cm)
バナジウム富士山系は50µg/L以上/御坂山地系はおおむね10µg/L以下
水質の型多くがCa-HCO₃型。一部にNa,Ca-HCO₃型・Na-HCO₃型、御坂第1水源はCa-SO₄型

硬度の区分については軟水と硬水の違いもあわせてご覧ください。

河口湖の湖面ごしに見える対岸の集落と、その背後の山
河口湖の湖畔に並ぶ集落。この町の水道は水源のほとんどを地下水に頼っており、10立方メートル使ったときの料金は県内でもっとも安いと報告されています。写真:663highland(Wikimedia Commons・CC BY-SA 4.0)

この水源の水を家で飲むなら

この町に本社と工場を置き、富士山の天然水を届けているのが富士観光開発株式会社の「ふじざくら命水」です。同社は採水地の市町村を公表していません(2026年9月8日時点、当サイトで公式サイト・特定商取引法に基づく表記・会社概要・ニュースリリースを確認)。公表されているのは「富士山の標高1,000メートル地点、国立公園内にある9つの自社水源のなかのひとつから採水」「地下150メートルからくみ上げ」という内容までで、水源は同社のクラフトビール「富士桜高原麦酒」の仕込み水と同じとされています。公式に住所が示されているのは、販売業者・本社・醸造所の所在地(いずれも富士河口湖町船津)です。

したがって当サイトは、この記事で紹介した町の水道水源と同社の採水地が同じだとは述べません。ここでは「この町に拠点を置き、富士山北麓の水を届けている事業者」としてご案内します。

ふじざくら命水(公式サイト・広告)
・ウォーターサーバーで使う場合:富士山の麓から天然水をお届け
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他社との比較はウォーターサーバー10社比較で整理しています。

まとめ

出典

一次資料(公的機関の公表資料および査読論文)。すべてのリンクの到達は2026年9月8日に確認しました。

参考サイト

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