クラウド15社の「水の開示」はどこまで進んだか——4段階で読む
「この会社は水の使用量を公表している」と聞いても、それが何を公表していることなのかは、意外とはっきりしません。WUEという指標の数値なのか、取水量の合計なのか、それとも「water positiveを目指します」という目標だけなのか。中身が違えば、読み手に分かることもまったく違います。この記事では、当社が観測している大手クラウド・データセンター事業者15社の水の開示を、4つの段階に分けて読み解きます。
先に要点をまとめると、次の3点です。
- ・15社の内訳はWUE数値まで開示が4社/取水量・総量を開示が7社/方針・目標のみが0社/当社が確認した範囲では見つけられなかったのが4社です(2026-08-21確定)
- ・海外8社と国内7社で形がはっきり違います。海外8社は全社が何らかの量を開示、国内7社はWUEが0社で、4社は当社が確認した範囲では見つけられませんでした
- ・開示は各社の任意です。日本の有価証券報告書のサステナビリティ欄でも、「指標及び目標」は重要性に応じた記載とされており、水の数値が必ず載る仕組みにはなっていません
順番に見ていきます。
4つの段階は何を区別しているのか
当社は姉妹サイト「AIライフライン」の水章で、15社の水に関する開示状況を月次で確認しています。確認しているのは開示があるかどうかと、その段階だけで、各社の数値そのものは扱いません。段階の定義は次の4つです。
| 段階 | この段階だと何が分かるか | 何が分からないままか |
|---|---|---|
| WUE数値を開示 | 電力1kWhあたり何リットル使ったかという効率が分かる | 総量が分からない(効率が良くても規模が大きければ総量は増える) |
| 取水量・総量を開示 | 実際に取った水の総量が分かる | 効率が分からない。事業規模との比較ができない |
| 方針・目標のみ | 会社として水をどう扱う方針かが分かる | 実績の量も効率も分からない |
| 開示なし・確認できず | (当社が確認した範囲では、水に関する開示を見つけられなかった) | 実際に開示がないのか、別の場所にあるのかは分からない |
ここで大事なのは、この4つは順位ではないということです。WUEを出している会社が取水量を出している会社より「良い」わけではありません。効率と総量は別の情報で、片方が分かってももう片方は分かりません。当社の水章も「開示している社数の多寡が『良い・悪い』に当たるか」は言えないこととして明示しています。
15社の内訳と、海外・国内の違い
2026年8月21日に確認した時点の内訳です。同じ表を、観測対象を海外と国内に分けて示します。
| 段階 | 海外 | 国内 | 合計 |
|---|---|---|---|
| WUE数値を開示 | 4社 | 0社 | 4社 |
| 取水量・総量を開示 | 4社 | 3社 | 7社 |
| 方針・目標のみ | 0社 | 0社 | 0社 |
| 開示なし・確認できず | 0社 | 4社 | 4社 |
| 合計 | 8社 | 7社 | 15社 |
表を縦に見ると、線がきれいに引かれているのが分かります。
- ・海外8社は、8社とも何らかの量を出しています。「開示なし・確認できず」は0社でした
- ・国内7社は、WUEが0社。3社が取水量・総量まで、残り4社は当社が確認した範囲では見つけられませんでした
- ・「方針・目標のみ」は海外も国内も0社です。方針を書くところまで進んだ会社は、量も一緒に出している——という形になっています
3つ目は意外に思われるかもしれません。「目標だけ掲げて数字を出さない」という段階は、この15社では実際には発生していませんでした。国内7社の詳しい内訳は別の記事で扱っています(国内のデータセンター会社は「水」の情報を出しているか)。
同じ「開示」でも中身が揃っていない
段階が同じでも、実際に載っている数字の形は会社ごとに違います。当社の台帳には、確認したときの注記が残っています。取水量・総量の段階にある会社の例を挙げます(AIライフライン 水章 water_jp.json の companies[].note より・2026-08-21確認)。
- ・Google——「拠点別の水使用データを環境報告書で開示(WUE単一値は確認できず)」
- ・Apple——「全社の水使用量(DC単体・WUEはなし)」
- ・Digital Realty——「取水量を開示(WUEは目標・改善率のみ)」
- ・ソフトバンク——「データセンター別の取水量を開示(WUEはなし)」
この4社は同じ「取水量・総量を開示」の段階にいますが、Googleとソフトバンクは拠点別・データセンター別、Appleは全社合計でデータセンター単体ではないという違いがあります。読み手からすると、この差はかなり大きいものです。同じ段階に並んでいるからといって、同じ粒度の情報が得られるわけではありません。
「取水量」と「消費量」も別物
もうひとつ、数字を読むときに欠かせない区別があります。取水量(withdrawal)と消費量(consumption)です。
査読誌 Communications of the ACM に採録された論文「Making AI Less “Thirsty”」は、冷却塔の場合について次のように定義しています。取水量とは加えた水の量(蒸発した水と排出した水の両方を含む)を指し、消費量は蒸発した水の量だけを指す。そして水質が良ければ、取水量のおよそ80%が蒸発して「消費」に当たる、と述べています(Li, Yang, Islam & Ren, arXiv:2304.03271v5, 2025年3月26日改訂・2026年9月9日確認)。
つまり、A社が「取水量」を、B社が「消費量」を出していた場合、その2つの数字を並べて大小を比べることはできません。会社の資料を見るときは、まず単語を確認する——これが最初の作業になります。
開示はどこに置かれているか
探すときに手間取るのが「場所」です。15社の開示ページのURLを当社で分類すると、置かれている場所は少なくとも5種類に分かれていました。
| 置かれている場所 | 社数 | 該当する会社 |
|---|---|---|
| データセンター専用サイト | 2社 | Microsoft/Google |
| サステナビリティ・CSRのページ | 5社 | AWS(Amazon)/Meta/Digital Realty/IIJ/GMOインターネットグループ |
| ESGデータ集 | 3社 | KDDI/ソフトバンク/富士通 |
| 報告書(サステナビリティレポート・統合報告書) | 2社 | NTTデータグループ/さくらインターネット |
| その他(環境ページ・社会貢献ページ・データシート) | 3社 | Apple/Oracle/Equinix |
「サステナビリティ」の一語で検索して見つかるとは限らない、ということです。データセンター専用サイトに置く会社もあれば、PDFの統合報告書の中にだけ載せる会社もあります。1か所を見て無かったことを、開示がないことの根拠にはできません。当社が「開示なし」ではなく「開示なし・確認できず」という書き方をしているのは、このためです。
なぜ会社によってこれほど違うのか
形が揃わない最大の理由は、水の開示を一律に義務づける制度が無いことです。
日本の制度:記載欄はあるが、水の数値は必須ではない
日本では2023年(令和5年)1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」等が改正され、有価証券報告書等に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設されました。適用は令和5年3月31日以後に終了する事業年度からです(金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令』等の改正について」・2026年9月9日確認)。
ただし、この記載欄の中身には強弱があります。金融庁の説明では、「ガバナンス」及び「リスク管理」については必須記載事項とし、「戦略」及び「指標及び目標」については重要性に応じて記載を求めるとされています。水の使用量は「指標及び目標」に当たりますから、その会社が重要と判断しなければ載らないという設計です。国内7社のWUEが0社である背景には、こうした制度の形もあります(この因果関係は当社が確認したものではなく、制度の記述からの整理です)。
国際的な枠組みは複数ある
会社が任意で参照する枠組みも一本化されていません。水については、たとえば国際的な報告基準であるGRI 303: Water and Effluents 2018があります(Global Reporting Initiative・2026年9月9日確認)。どの枠組みに沿うかは会社が選ぶため、載る項目も表現も揃いません。
自分で確かめるときの手順
- 1. 【手順1】その会社の公式サイトから始めます。ニュース記事やまとめサイトの引用ではなく、会社自身が出している資料を開きます
- 2. 【手順2】表3の5か所を順に当たります。サステナビリティ/CSR → ESGデータ集 → 統合報告書 → 有価証券報告書の順が効率的です
- 3. 【手順3】数字を見つけたら、取水量(withdrawal)か消費量(consumption)かを確認します。単語が違えば比較できません
- 4. 【手順4】範囲を確認します。全社合計なのか、データセンターだけなのか、拠点別なのかで意味が変わります
- 5. 【手順5】期間を確認します。会計年度で区切る会社が多く、暦年とはずれます
- 6. 【手順6】見つからなくても「出していない」と結論づけず、探した場所を書き残しておきます。次に見るときの手がかりになります
まとめ
- ・15社の開示は、WUE数値まで4社/取水量・総量7社/方針・目標のみ0社/確認できず4社です(2026-08-21確定)
- ・海外8社は全社が何らかの量を開示、国内7社はWUEが0社で4社が確認できずでした。「方針・目標のみ」は海外も国内も0社です
- ・同じ段階でも、拠点別か全社合計かといった粒度は揃いません。取水量と消費量も別の概念で、並べて比較することはできません
- ・開示ページの置き場所は少なくとも5種類に分かれます。1か所に無いことは、開示が無いことの根拠になりません
- ・水の開示を一律に義務づける制度は無く、日本の有価証券報告書でも「指標及び目標」は重要性に応じた記載とされています
「開示が進んでいるか」を一言で言うのは難しく、当社はその良し悪しの基準も持っていません。それでも、段階と場所と単語を押さえておけば、誰かが挙げた数字を自分で確かめ直せるようになります。
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- ・データセンターの冷却水問題とAI時代の水——なぜデータセンターが水を使うのかという仕組みの話です
出典
一次資料(当社の観測データ、政府機関の公表資料、査読論文および国際基準の公式ページ)
- ・AIライフライン|水章|観測対象が大手クラウド・データセンター事業者15社であること、4つの開示段階の定義、段階別の社数(WUE 4社/取水量・総量 7社/方針・目標のみ 0社/開示なし・確認できず 4社)、および「各社の数値は転載しない」という観測方針|確定日2026-08-21・確認日2026年9月9日
- ・AIライフライン|水章 機械可読データ(water_jp.json)|表2の海外8社・国内7社の内訳、表3の分類に用いた各社の開示ページURL、および Google・Apple・Digital Realty・ソフトバンクの開示内容に関する注記の原文|確認日2026年9月9日
- ・Pengfei Li, Jianyi Yang, Mohammad A. Islam, Shaolei Ren「Making AI Less “Thirsty”: Uncovering and Addressing the Secret Water Footprint of AI Models」arXiv:2304.03271v5(Communications of the ACM 採録)|冷却塔における水の取水量(withdrawal=蒸発分と排出分を含む加えた水の量)と消費量(consumption=蒸発した水の量のみ)の定義、および水質が良い場合に取水量のおよそ80%が蒸発して消費に当たるという記述|2025年3月26日改訂・確認日2026年9月9日
- ・金融庁|「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正について|サステナビリティに関する考え方及び取組の記載欄の新設、「ガバナンス」「リスク管理」が必須記載事項で「戦略」「指標及び目標」は重要性に応じた記載であること、令和5年1月31日公布・令和5年3月31日以後に終了する事業年度から適用|確認日2026年9月9日
- ・Global Reporting Initiative|Topic Standard for Water and Effluents|水の報告に関する国際基準 GRI 303: Water and Effluents 2018 が存在すること|確認日2026年9月9日
本文中で各社の開示に触れた箇所は、AIライフライン 水章が2026年8月21日に確認した時点のものです。各社の公表内容は更新されるため、最新の状態は水章の一覧から各社のページでご確認ください。
データ出典:AIライフライン 水章
この記事で扱った「15社の開示がどの段階にあるか」は、当社が運営する定点観測サイト「AIライフライン」の水章から引用しています。引用するのは確定日の付いた値だけで、暫定値は使いません。
- ・WUE数値まで開示している事業者数:4社(2026-08-21 確定)
- ・内訳(同章の記載):2026-08-21 確認時点で、大手15社のうち4社です。取水量・総量レベルの開示は7社、方針・目標のみ0社、開示なし・確認できず4社。
- ・出典:AIライフライン 水章(確定日 2026-08-21)
- ・機械可読データ:water_jp.json
- ・この章は観測中で、良否の基準は定めていません。数値の増減が「良い・悪い」を意味するものとして引用しないでください
- ・この章から言えないこと:各社の実際の水使用量や WUE の数値(各社の数値は転載しない方針・2026-08-21 裁定)/国内データセンターが水源や地域の水供給に与える影響(取水量・水源の系列は観測していない)/開示している社数の多寡が「良い・悪い」に当たるか(開示は各社の任意であり、基準を定めていない)。
- ・次の更新予定:2026-09(更新のたびに確定日が進みます。引用時は上のURLで最新の確定日をご確認ください)