ターコイズブルーに透きとおるテ・ワイコロプペの泉の水面と、水底まで見える湧出口

透明度76mの奇跡【世界の名水】テ・ワイコロプペの泉〜ニュージーランド〜

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ニュージーランド南島の北西、ゴールデンベイと呼ばれる入り江の奥に、水の透明さの限界に近い泉があります。テ・ワイコロプペの泉(Te Waikoropupū Springs)。地元では「プププ・スプリングス」とも呼ばれ、湧き出す水の量も、その澄みかたも、世界でほとんど例のない規模です。

そして、この泉には日本の名水地とは決定的に違うルールがあります。水に触れることが、いっさい禁じられているのです。

テ・ワイコロプペの泉とは

ニュージーランド南島タスマン地区、タカカ(Tākaka)の町から西へ約7kmの谷あいにある湧水群です。ニュージーランド最大の淡水湧泉であり、南半球最大の冷水湧泉(水温の低い湧き水)とされています。

水の出どころは、アーサー大理石帯水層(Wharepapa Arthur Marble Aquifer)と呼ばれる巨大なカルスト(石灰質の岩が水に溶けて空洞だらけになった地形)の地下水脈です。オルドビス紀という4億年以上前の時代にできた大理石が、長い年月をかけて地下水に溶かされ、内部に無数の水路と空洞をつくりました。その圧力で地表へ噴き上がっているのが、この泉です。

透明度76メートル──測り直された世界記録級の澄みかた

この泉が世界的に知られている理由は、水の透明さです。

最初の科学的な計測は1993年。潜水士が水中で水平方向の見通し距離を測り、63メートルという数字が出ました。当時、これより澄んだ水は南極の氷の下にしかないと考えられていました。

それから25年後の2017年10月から2018年1月にかけて、ニュージーランド国立水・大気研究所(NIWA)が改めて計測を行います。今度は潜水士ではなく、透過率計(水中を通る光の減り方を測る装置)を水中に吊り下げる方式です。泉を守るため、潜水そのものが禁止されたためでした。

10分ごとに60回ずつ、3か月で約100万回。この膨大なデータから導かれた平均の透明度は、約76メートル(誤差±7メートル)。95%の時間帯で73メートルを超え、最も澄んだ瞬間の推定値は約81メートルに達しました。純水(不純物をいっさい含まない水)の理論上の透明度が約83メートルとされているので、ほぼ限界に近い値です。

なぜここまで澄むのか

理由は、地下での「ろ過」にあります。この帯水層に降った水が泉として湧き出すまでの平均滞留時間は、およそ8年。地下をゆっくり移動するあいだに濁りのもとになる粒子が取り除かれ、さらに帯水層に生息するスティゴファウナ(地下水性の小さな生物群)が有機物を分解します。人の手による浄水装置ではなく、地面そのものが巨大なフィルターとして働いているわけです。

テ・ワイコロプペの泉に設けられた木製の遊歩道と、水面に張り出した展望デッキ

写真:Graeme Churchard(Wikimedia Commons)/CC BY 2.0

1秒間に14,000リットル

透明さだけでなく、量も圧倒的です。ニュージーランド自然保護省(DOC)は湧出量を毎秒14,000リットルと示しています。学術論文では平均毎秒13.4立方メートル(=13,400リットル)とされ、主湧泉とフィッシュ・クリーク湧泉など複数の噴出口の合計です。

一般的な家庭用浴槽が200リットル前後ですから、1秒で浴槽70杯分が湧き続けている計算になります。

潮の満ち引きで水位が変わるという不思議

この泉には、もうひとつ説明の難しい現象があります。1日2回、湧出量が規則的に増減するのです。しかもそのリズムは、近くの海の潮の満ち引きと一致しています。

泉は海面より高い内陸にあり、海とつながる水路は確認されていません。NIWAの研究者は、この現象を海洋荷重潮(海の潮の重みで地殻がわずかに上下する動き)と地球潮(太陽と月の引力で地殻が直接動く現象)の組み合わせによるものと説明しています。一方で、湧き出す水にわずかに海水成分が含まれていることから、地下で海とつながっている可能性も指摘されています。

水質データ

項目 数値・内容
所在地 ニュージーランド 南島 タスマン地区 タカカ近郊
水源 ワレパパ・アーサー大理石帯水層(カルスト湧泉)
湧出量 毎秒約14,000L(平均13.4 m³/秒)
水温 公表データなし(年間を通じてほぼ一定の低温)
透明度(水平視認距離) 平均約76m(2017-18年NIWA計測)/1993年計測時は63m
塩化物イオン 約100 mg/L(わずかに塩分を含む)
カルシウム 大理石の溶解由来で高濃度。年間約47,000トンの大理石が溶けていると推定
地下滞留時間 平均約8年
硬度 公表データなし
飲用 不可(採水・接触が全面禁止)

なお、この泉では硝酸性窒素の濃度が50年間にわたって上昇傾向にあることが確認されています。周辺の酪農と施肥が要因とみられ、これが後述する法的保護へとつながりました。数値そのものは飲料水基準を大きく下回りますが、カルスト地形は地表の影響が地下へ届きやすく、わずかな変化でも透明度に響くおそれがあるためです。

上の水質データのとおり、この泉の水は大理石の帯水層を通るためカルシウム濃度が高くなっています。自宅の水道水やミネラルウォーターがどのくらいのミネラルを含んでいるかは、【安心の日本メーカー】 TDS&ECメーター 水質測定器 TDS EC 水分計 のようなペン型の計測器で手軽に確かめられます。TDS(総溶解固形分)は硬度そのものではありませんが、水に溶けている成分の総量の目安になります。

透明な水の中で揺れる水生植物と、奥に広がる青く澄んだ湧水域

写真:Pseudopanax at English Wikipedia(Wikimedia Commons)/Public domain

水に触れてはいけない

訪問前にかならず知っておくべきことです。テ・ワイコロプペの泉、およびフィッシュ・クリーク、スプリングス川では、水に接するすべての行為が禁止されています。

理由は2つあります。ひとつは、世界でも最も澄んだ水質を守るため。もうひとつは、この泉が地元マオリにとってタオンガ(宝)でありワヒ・タプ(聖なる場所)だからです。日本の名水地では柄杓(ひしゃく)で水を汲めるところも多いですが、ここは考え方がまったく違います。「見るだけ」が敬意の示し方です。

犬の同伴も認められていません。また遊歩道や展望デッキには柵のない区間があり、水は冷たく流れも速いため、子ども連れの場合は目を離さないよう注意が必要です。

アクセスと歩き方

訪問者の声で共通しているのは「光の条件で見え方が変わる」という点です。日差しが強すぎない朝のうちが、水底まで見通しやすいとされています。

ゴールデンベイ一帯は公共交通が限られ、レンタカー前提の移動になります。全体の行程を組むなら C10 地球の歩き方 ニュージーランド 2026~2027 が最新版です。

2023年、最高レベルの法的保護へ

2023年10月、テ・ワイコロプペの泉とワレパパ・アーサー大理石帯水層に対して水保全命令(Water Conservation Order)が発令されました。これはニュージーランドで水域に与えられる法的保護のうち最も強いもので、泉そのものだけでなく、その水を生み出す地下の帯水層まで保護対象に含めた点が特徴です。

泉は、マオリ遺産評議会(Heritage New Zealand)にワヒ・タプとして登録されています。地下水の質を守ることが泉の透明度を守ることであり、それは同時に文化的な価値を守ることでもある──この土地の考え方が制度になったかたちです。

日本の名水と並べてみると

日本の名水百選に選ばれた湧水の多くは、周辺の岩盤で自然にろ過された水が湧き出すという点で、テ・ワイコロプペと同じ仕組みを持っています。違うのは規模と、水との距離感です。

日本の名水地では手を浸し、口に含み、持ち帰ることが体験の中心にあります。テ・ワイコロプペでは、それらすべてを手放すことで水が守られている。どちらが正しいということではなく、水との付き合い方には複数の答えがあるということでしょう。

まとめ

日本の名水もあわせてご覧ください

ニュージーランドの水を飲んでみる

テ・ワイコロプペの泉の水は、採水そのものが法的に認められていません。ここで湧いた水を買うことはできませんが、同じニュージーランドで採水された水なら日本でも手に入ります。スミス スプリングウォーター 750ml 瓶 ニュージーランド ミネラルウォーター は、北島のファカタネで採水されるナチュラルミネラルウォーターです。泉のある南島とは島が異なりますが、瓶入り750mlの1本から試せます。

出典

一次資料(政府機関・公的機関の公表資料および査読論文)

参考サイト

訪問を計画するときに役立つ実用情報