膜フィルターと稲妻を並べた丸アイコン。半導体工場の超純水の話

半導体工場が使う「超純水」とは——AIチップの裏側にある水

AIの話で水が出てくるとき、たいていはデータセンターの冷却水です。けれども、AIを動かすチップそのものを作る工程でも、大量の水が使われています。しかも普通の水ではありません。不純物をほとんど取り除いた「超純水」です。この記事では、超純水とは何か、どうやって作るのか、どれくらい厳しい水質が求められるのかを、学術文献と企業の公表資料から整理します。

先に要点をまとめると、次の3点です。

順番に見ていきます。

純水と超純水の境目

まず言葉の定義です。学術誌『表面技術』に掲載された解説記事は、次のように整理しています(矢野大作「半導体製造に用いられる超純水と機能水の最新動向」表面技術 Vol.69, No.10, 2018, p.425・2026年9月9日確認)。

「水中に含まれる不純物の内、イオン交換や蒸留によりイオン類を除去した水を一般に純水またはイオン交換水と呼び、残存する微粒子、有機物、溶存ガス等を様々な水処理手段を組み合わせてさらに除去した高度精製水を超純水と呼ぶ。」

境目を数字で示すときに使うのが比抵抗です。水にイオンが溶けていると電気が流れやすくなるため、電気の流れにくさ(比抵抗)が高いほど、イオンが少ない=純度が高いことになります。

区分比抵抗(25℃)
純水(イオン交換水)おおむね1MΩ・cm以上
超純水10MΩ・cm以上と呼ぶことが多い
理論純水(純粋な水)18.24MΩ・cm
表1:比抵抗による水の区分(矢野, 表面技術 Vol.69, No.10, 2018, p.425より作成・2026年9月9日確認)

18.24MΩ・cmが理論上の上限だという点が要点です。純水そのものもわずかに電離するため、これ以上は原理的に上がりません。半導体工場が目指すのは、この理論値のすぐ手前です。

どうやって作るのか——3段階の構成

超純水の製造装置は、一般に3段階で構成されます。

段階何をするか
前処理システム濁度成分を除去する
一次純水製造システムイオン類・有機物・溶存ガス等を除去する
二次純水製造システム(サブシステム)一次純水をさらに高純度化する
表2:超純水製造装置の構成(矢野, 表面技術 Vol.69, No.10, 2018, p.425より作成・2026年9月9日確認)

最後のサブシステムが、超純水を超純水たらしめている部分です。文献によれば、次の4つの装置から構成されます。

そして、このサブシステムは常時循環しています。文献は「一次純水中に残留する不純物をほぼ完全に除去すると共に、高純度化された水質を維持するため循環処理が行われている」と説明しています。超純水は作り置きができません。止めれば配管から溶け出すものや空気から溶け込むもので純度が落ちるため、回し続けることが品質そのものになっています。

紫外線で有機物を壊す

興味深いのは紫外線酸化の仕組みです。波長185nmという短波長の紫外線は水分子を分解でき、そのとき酸化力が極めて高いヒドロキシルラジカルが生成されます。このラジカルが有機物を酸化分解し、二酸化炭素またはより低分子量の有機酸に変え、後段のイオン交換樹脂装置で吸着除去される——という流れです。この結果、超純水中の有機物濃度(TOC)は要求水質である1μg/Lが達成されます。

ただし副作用もあります。文献によれば、生成したヒドロキシルラジカルは有機物に比べて過剰なため、ラジカル同士が結合して過酸化水素が生成する副反応が進みます。サブシステムは循環しているので、過酸化水素は一定濃度まで濃縮されることになり、超純水中には5〜40μg/L程度含まれることが知られている、とされています。純度を上げる工程が、別の不純物を生む——ここがこの分野の難しさです。

要求される水質の桁

半導体デバイス製造用の超純水に求められる水質は、国際半導体技術ロードマップ(ITRS。2015年よりIEEE International Roadmap for Devices and Systems=IRDSへ組織変更)が示しています。文献に掲載された表から、主な項目を引きます。

項目要求水質
全有機炭素(TOC)1μg/L未満
シリカ(SiO2換算)0.3μg/L未満
微粒子数(臨界粒径超)1,000個/L未満
溶存酸素10μg/L未満
過酸化水素10μg/L未満
金属類(As, Ba, Cd, Mn, Pb, Sn, Sb, V)10ng/L未満
重要な金属(Al, Ca, Cr, Cu, Fe, K, Li, Mg, Na, Ni, Ti, Zn)1.0ng/L未満
ホウ素50ng/L未満
臨界粒径6.5〜12nm(生産年による)
表3:半導体デバイス製造用超純水への要求水質(ITRS/IRDSの示す値。矢野, 表面技術 Vol.69, No.10, 2018, p.426の表1より抜粋・2026年9月9日確認)

桁を確かめておきます。ng/L(ナノグラム毎リットル)は1兆分の1グラム毎リットルです。重要な金属の1.0ng/L未満というのは、25mプール(およそ400立方メートル)に対して0.4mg——耳かき1杯にも満たない量に相当します。

ここまで厳しくする理由は、加工の寸法にあります。表3の臨界粒径が6.5〜12nmとされているのは、それより大きな粒子が回路の上に残ると不良になるからです。洗浄に使う水の中の粒子が、そのまま製品の歩留まりを左右します。

使う量と、回収・再利用

これだけ手をかけた水を、洗浄のたびに捨てていては成り立ちません。実際の工場では回収と再利用が組み込まれています。

キオクシアホールディングスは、公式サイトで次のように公表しています(キオクシアホールディングス「水資源の有効活用」・2026年9月9日確認)。

注目したいのは「排水管が最大13系統」という点です。工場から出る水を1本にまとめず、含有物質ごとに分けて集めているということです。分けて集めるからこそ、それぞれに適した処理をして再利用できます。再利用は設計段階で決まるという良い例です。

また同社は、世界資源研究所(WRI)の「Aqueduct」や世界自然保護基金(WWF)の「Water Risk Filter」といったツールを用いて、国内外の製造事業場について2040年までの水ストレスの変動傾向などを社外専門家により評価している、としています。工場の水は、いま足りているかだけでなく、数十年後の見通しで測られるものになっています。

参考までに、日本の製造業全体の回収率を見ておくと、国土交通省の資料では化学工業と鉄鋼業が80〜90%程度、パルプ・紙・紙加工品製造業が40%程度で推移しています(国土交通省「令和8年版 日本の水資源の現況」第2章・2026年9月9日確認)。業種によって水の回し方はかなり違います。

この水は「AIの水」の話に入っているのか

最後に、観測の範囲について線を引いておきます。

当社は姉妹サイト「AIライフライン」の水章で、水に関する開示状況を月次で確認しています。ただしその観測対象は大手クラウド・データセンター事業者15社であり、半導体工場は入っていません。つまり、当社が「WUEの数値まで開示しているのは4社」と言うとき、その4社はチップを作る工場の話ではありません。

同じ「AIと水」でも、チップを動かす水(データセンターの冷却水)とチップを作る水(半導体工場の超純水)は、別々に数えるべき別の話です。この記事の内容は、当社の水章の確定値では裏づけられません。半導体工場の水については、各社が公表しているサステナビリティ情報を個別に見ていくしかない、というのが現在地です。

なお、日本の工業用水の統計に半導体工場は入りますが(製造業のため)、データセンターは入りません。この違いは別の記事で整理しています(データセンターはどの水を使う?上水・工業用水・再生水のちがい)。

まとめ

飲める水を作るのが浄水場の仕事なら、超純水を作るのは「何も入っていない水」を作る仕事です。方向は正反対に見えて、どちらも水から何かを取り除く技術の積み重ねでできています。

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出典

一次資料(学術文献、企業の公式資料および政府機関の公表資料)

25mプールに換算した記述は、1.0ng/Lという要求水質を約400立方メートルの水量に当てはめて当社が計算したものです(0.4mg)。プールの容量は一般的な25m×6コースの目安を用いた概算で、公表値ではありません。