半導体工場が使う「超純水」とは——AIチップの裏側にある水
AIの話で水が出てくるとき、たいていはデータセンターの冷却水です。けれども、AIを動かすチップそのものを作る工程でも、大量の水が使われています。しかも普通の水ではありません。不純物をほとんど取り除いた「超純水」です。この記事では、超純水とは何か、どうやって作るのか、どれくらい厳しい水質が求められるのかを、学術文献と企業の公表資料から整理します。
先に要点をまとめると、次の3点です。
- ・水の純度は比抵抗で表します。おおむね1MΩ・cm(25℃)以上が純水、10MΩ・cm以上が超純水と呼ばれ、理論上の上限(純粋な水)は18.24MΩ・cmです
- ・半導体向けの要求水質は桁が違います。全有機炭素は1μg/L未満、金属は10ng/L未満、重要な金属は1.0ng/L未満といった水準です
- ・使う量も多いため、回収と再利用が前提になっています。キオクシアは国内製造事業場で2024年度に約37百万立方メートルをリサイクルしたと公表しています(全水使用量の約57%相当)
順番に見ていきます。
純水と超純水の境目
まず言葉の定義です。学術誌『表面技術』に掲載された解説記事は、次のように整理しています(矢野大作「半導体製造に用いられる超純水と機能水の最新動向」表面技術 Vol.69, No.10, 2018, p.425・2026年9月9日確認)。
「水中に含まれる不純物の内、イオン交換や蒸留によりイオン類を除去した水を一般に純水またはイオン交換水と呼び、残存する微粒子、有機物、溶存ガス等を様々な水処理手段を組み合わせてさらに除去した高度精製水を超純水と呼ぶ。」
境目を数字で示すときに使うのが比抵抗です。水にイオンが溶けていると電気が流れやすくなるため、電気の流れにくさ(比抵抗)が高いほど、イオンが少ない=純度が高いことになります。
| 区分 | 比抵抗(25℃) |
|---|---|
| 純水(イオン交換水) | おおむね1MΩ・cm以上 |
| 超純水 | 10MΩ・cm以上と呼ぶことが多い |
| 理論純水(純粋な水) | 18.24MΩ・cm |
18.24MΩ・cmが理論上の上限だという点が要点です。純水そのものもわずかに電離するため、これ以上は原理的に上がりません。半導体工場が目指すのは、この理論値のすぐ手前です。
どうやって作るのか——3段階の構成
超純水の製造装置は、一般に3段階で構成されます。
| 段階 | 何をするか |
|---|---|
| 前処理システム | 濁度成分を除去する |
| 一次純水製造システム | イオン類・有機物・溶存ガス等を除去する |
| 二次純水製造システム(サブシステム) | 一次純水をさらに高純度化する |
最後のサブシステムが、超純水を超純水たらしめている部分です。文献によれば、次の4つの装置から構成されます。
- ・紫外線酸化装置(UV ox)——有機物を分解除去する
- ・非再生型イオン交換樹脂装置(MB)——イオン成分を除去する
- ・膜脱気装置(MD)——溶存ガスを除去する
- ・限外ろ過膜装置(UF)——微粒子を除去する
そして、このサブシステムは常時循環しています。文献は「一次純水中に残留する不純物をほぼ完全に除去すると共に、高純度化された水質を維持するため循環処理が行われている」と説明しています。超純水は作り置きができません。止めれば配管から溶け出すものや空気から溶け込むもので純度が落ちるため、回し続けることが品質そのものになっています。
紫外線で有機物を壊す
興味深いのは紫外線酸化の仕組みです。波長185nmという短波長の紫外線は水分子を分解でき、そのとき酸化力が極めて高いヒドロキシルラジカルが生成されます。このラジカルが有機物を酸化分解し、二酸化炭素またはより低分子量の有機酸に変え、後段のイオン交換樹脂装置で吸着除去される——という流れです。この結果、超純水中の有機物濃度(TOC)は要求水質である1μg/Lが達成されます。
ただし副作用もあります。文献によれば、生成したヒドロキシルラジカルは有機物に比べて過剰なため、ラジカル同士が結合して過酸化水素が生成する副反応が進みます。サブシステムは循環しているので、過酸化水素は一定濃度まで濃縮されることになり、超純水中には5〜40μg/L程度含まれることが知られている、とされています。純度を上げる工程が、別の不純物を生む——ここがこの分野の難しさです。
要求される水質の桁
半導体デバイス製造用の超純水に求められる水質は、国際半導体技術ロードマップ(ITRS。2015年よりIEEE International Roadmap for Devices and Systems=IRDSへ組織変更)が示しています。文献に掲載された表から、主な項目を引きます。
| 項目 | 要求水質 |
|---|---|
| 全有機炭素(TOC) | 1μg/L未満 |
| シリカ(SiO2換算) | 0.3μg/L未満 |
| 微粒子数(臨界粒径超) | 1,000個/L未満 |
| 溶存酸素 | 10μg/L未満 |
| 過酸化水素 | 10μg/L未満 |
| 金属類(As, Ba, Cd, Mn, Pb, Sn, Sb, V) | 10ng/L未満 |
| 重要な金属(Al, Ca, Cr, Cu, Fe, K, Li, Mg, Na, Ni, Ti, Zn) | 1.0ng/L未満 |
| ホウ素 | 50ng/L未満 |
| 臨界粒径 | 6.5〜12nm(生産年による) |
桁を確かめておきます。ng/L(ナノグラム毎リットル)は1兆分の1グラム毎リットルです。重要な金属の1.0ng/L未満というのは、25mプール(およそ400立方メートル)に対して0.4mg——耳かき1杯にも満たない量に相当します。
ここまで厳しくする理由は、加工の寸法にあります。表3の臨界粒径が6.5〜12nmとされているのは、それより大きな粒子が回路の上に残ると不良になるからです。洗浄に使う水の中の粒子が、そのまま製品の歩留まりを左右します。
使う量と、回収・再利用
これだけ手をかけた水を、洗浄のたびに捨てていては成り立ちません。実際の工場では回収と再利用が組み込まれています。
キオクシアホールディングスは、公式サイトで次のように公表しています(キオクシアホールディングス「水資源の有効活用」・2026年9月9日確認)。
- ・超純水はウエハー洗浄などに使用し、未使用分を回収して再循環させている
- ・国内製造事業場では、製造工程からの排水管が含有物質ごとに最大13系統に分かれて回収できるように敷設されている
- ・リサイクル可能な排水は、回収排水処理で含有物質ごとに適切な処理を行った後、冷却塔やスクラバー(排ガス洗浄装置)などで再利用している
- ・国内製造事業場における2024年度の水リサイクル実績は約37百万立方メートル(全水使用量の約57%相当)
- ・取水量については2017年度を基準とした製造時における製品の容量当たりの改善率で削減目標を設定し、2024年度の目標48.5%以下に対して実績は40.9%で目標を達成した
注目したいのは「排水管が最大13系統」という点です。工場から出る水を1本にまとめず、含有物質ごとに分けて集めているということです。分けて集めるからこそ、それぞれに適した処理をして再利用できます。再利用は設計段階で決まるという良い例です。
また同社は、世界資源研究所(WRI)の「Aqueduct」や世界自然保護基金(WWF)の「Water Risk Filter」といったツールを用いて、国内外の製造事業場について2040年までの水ストレスの変動傾向などを社外専門家により評価している、としています。工場の水は、いま足りているかだけでなく、数十年後の見通しで測られるものになっています。
参考までに、日本の製造業全体の回収率を見ておくと、国土交通省の資料では化学工業と鉄鋼業が80〜90%程度、パルプ・紙・紙加工品製造業が40%程度で推移しています(国土交通省「令和8年版 日本の水資源の現況」第2章・2026年9月9日確認)。業種によって水の回し方はかなり違います。
この水は「AIの水」の話に入っているのか
最後に、観測の範囲について線を引いておきます。
当社は姉妹サイト「AIライフライン」の水章で、水に関する開示状況を月次で確認しています。ただしその観測対象は大手クラウド・データセンター事業者15社であり、半導体工場は入っていません。つまり、当社が「WUEの数値まで開示しているのは4社」と言うとき、その4社はチップを作る工場の話ではありません。
同じ「AIと水」でも、チップを動かす水(データセンターの冷却水)とチップを作る水(半導体工場の超純水)は、別々に数えるべき別の話です。この記事の内容は、当社の水章の確定値では裏づけられません。半導体工場の水については、各社が公表しているサステナビリティ情報を個別に見ていくしかない、というのが現在地です。
なお、日本の工業用水の統計に半導体工場は入りますが(製造業のため)、データセンターは入りません。この違いは別の記事で整理しています(データセンターはどの水を使う?上水・工業用水・再生水のちがい)。
まとめ
- ・純水はおおむね1MΩ・cm(25℃)以上、超純水は10MΩ・cm以上と呼ばれ、理論上の上限は18.24MΩ・cmです
- ・製造装置は前処理・一次純水・二次純水(サブシステム)の3段階。サブシステムは紫外線酸化・非再生型イオン交換樹脂・膜脱気・限外ろ過で構成され、常時循環しています
- ・185nmの紫外線で有機物を分解してTOCを1μg/Lまで下げますが、副反応で過酸化水素が5〜40μg/L程度生じることが知られています
- ・要求水質は全有機炭素1μg/L未満、金属10ng/L未満、重要な金属1.0ng/L未満といった水準です。臨界粒径は6.5〜12nmとされています
- ・回収・再利用が前提の設計です。キオクシアは国内製造事業場で排水管を最大13系統に分け、2024年度に約37百万立方メートル(全水使用量の約57%相当)をリサイクルしたと公表しています
- ・当社の水章の観測対象はクラウド・データセンター事業者15社で、半導体工場は含まれません
飲める水を作るのが浄水場の仕事なら、超純水を作るのは「何も入っていない水」を作る仕事です。方向は正反対に見えて、どちらも水から何かを取り除く技術の積み重ねでできています。
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出典
一次資料(学術文献、企業の公式資料および政府機関の公表資料)
- ・矢野大作(オルガノ株式会社)「半導体製造に用いられる超純水と機能水の最新動向」表面技術 69巻10号(2018年10月1日発行)p.425-429・DOI 10.4139/sfj.69.425|純水・超純水の定義と比抵抗による区分(純水おおむね1MΩ・cm以上、超純水10MΩ・cm以上、理論純水18.24MΩ・cm、いずれも25℃)、製造装置の3段階構成(前処理・一次純水・二次純水)とサブシステムの4装置(紫外線酸化装置UV ox・非再生型イオン交換樹脂装置MB・膜脱気装置MD・限外ろ過膜装置UF)および循環処理、185nm紫外線によるヒドロキシルラジカル生成と有機物分解・TOC 1μg/Lの達成、副反応による過酸化水素の生成と超純水中に5〜40μg/L程度含まれること、表3の要求水質(ITRS/IRDSの値)|確認日2026年9月9日
- ・キオクシアホールディングス|水資源の有効活用|超純水をウエハー洗浄などに使用し未使用分を回収して再循環させていること、国内製造事業場の排水管が含有物質ごとに最大13系統に分かれていること、リサイクル可能な排水を冷却塔やスクラバーで再利用していること、2024年度の国内製造事業場の水リサイクル実績約37百万立方メートル(全水使用量の約57%相当)、取水量の削減目標(2017年度基準・製品の容量当たりの改善率)2024年度目標48.5%以下に対する実績40.9%、WRI「Aqueduct」およびWWF「Water Risk Filter」を用いた2040年までの水リスク評価|確認日2026年9月9日
- ・国土交通省|令和8年版 日本の水資源の現況|業種別回収率(化学工業・鉄鋼業80〜90%程度、パルプ・紙・紙加工品製造業40%程度)|2026年8月7日公表・確認日2026年9月9日
- ・AIライフライン|水章 機械可読データ(water_jp.json)|同章の観測対象が大手クラウド・データセンター事業者15社であり、半導体工場が含まれていないこと|確定日2026-08-21・確認日2026年9月9日
25mプールに換算した記述は、1.0ng/Lという要求水質を約400立方メートルの水量に当てはめて当社が計算したものです(0.4mg)。プールの容量は一般的な25m×6コースの目安を用いた概算で、公表値ではありません。