海水淡水化の仕組みと日本の現状
「海水から飲み水をつくる」と聞くと、雨の少ない外国の話のように感じるかもしれません。しかし日本にも海水淡水化施設が実際に稼働していて、毎日の水道水の一部を支えている地域があります。
本記事では、海水淡水化の中心技術である逆浸透(RO)法の仕組みをやさしく解説したうえで、福岡地区水道企業団の「まみずピア」と沖縄県企業局の海水淡水化センターという日本の2施設について、各公式サイトの記載にもとづいて現状を整理します。
掲載する数値・記載内容は、いずれも2026年8月時点の各公式サイト調査にもとづきます。
結論:日本の海水淡水化は逆浸透(RO)法が主役で、すでに水道を支える現役の水源になっている
先に結論をまとめます。
- ・海水淡水化の中心技術は、RO膜(逆浸透膜)という特殊な膜に圧力をかけて海水を通し、水と塩分などを分ける「逆浸透法」です
- ・福岡には「まみずピア」(福岡地区水道企業団 海水淡水化センター)があり、最大生産能力は1日50,000立方メートルと公式サイトに記載されています(福岡地区水道企業団公式サイト・2026年8月調査)
- ・沖縄には沖縄県企業局の海水淡水化センターがあり、1日当たり約4万立方メートルの淡水をつくることができ、平成9年から全面稼働していると公式サイトに記載されています(沖縄県企業局公式サイト・2026年8月調査)
つまり海水淡水化は、実験段階の未来技術ではなく、日本でもすでに家庭の蛇口につながっている現役のインフラです。以下、仕組みから順に見ていきます。
海水淡水化とは:海水から塩分を取り除いて淡水をつくる技術
海水は塩分を多く含むため、そのままでは飲み水にも、生活用水にも使えません。海水淡水化とは、この海水から塩分などを取り除いて、飲み水として使える淡水をつくる技術のことです。
淡水化の方法には、海水を加熱して水蒸気を集める蒸発法など複数の方式がありますが、本記事で紹介する日本の2施設が採用しているのは、膜を使う「逆浸透法(RO法)」です。沖縄県企業局の公式サイトにも「企業局では、逆浸透法を採用しています」と明記されています(沖縄県企業局公式サイト・2026年8月調査)。

まず「浸透」を知ると、「逆浸透」が分かる
逆浸透を理解する近道は、先に「浸透」という自然現象を知ることです。水は通すけれど、塩分などの溶けている成分は通しにくい膜(半透膜)を挟んで、濃度の薄い水と濃い水を置くと、水は薄い側から濃い側へ自然に移動します。濃度の差を埋めようとして水が動く、この現象が「浸透」です。野菜に塩をふると水分が出てくるのも、この浸透の身近な例としてよく挙げられます。
このとき水を移動させようとする力を「浸透圧」と呼びます。放っておけば、水は必ず「薄い側から濃い側へ」動くのが自然の向きです。
逆浸透(RO)は、圧力で自然の向きを逆転させる
逆浸透(RO:Reverse Osmosis)は、この自然の向きを人工的にひっくり返す技術です。濃い側、つまり海水の側に浸透圧を上回る強い圧力をかけると、水の流れが逆転し、水の分子だけが膜を通り抜けて薄い側へ押し出されます。塩分などの成分は膜を通れず、海水側に取り残されます。
こうして膜を通り抜けた水が「淡水」、膜の手前に残った塩分の濃い水が「濃縮海水(濃縮水)」です。海水淡水化とは、圧力を使って海水を淡水と濃縮海水に仕分ける作業だと言い換えることができます。
RO膜は、ろ過に使われる膜の中でも特に目が細かい膜で、砂や濁りのような目に見える汚れだけでなく、水に溶け込んでいる塩分のような成分まで分離の対象にできる点が特徴です。この性質を活かして、RO膜は海水淡水化だけでなく、家庭用の浄水器やウォーターサーバーの浄水にも使われています(この点は記事の後半でもう一度触れます)。

海水が水道水になるまでの流れ
施設によって細部は異なりますが、海水淡水化の一般的な流れは次のとおりです。
- 1. 取水:海から海水を取り込みます
- 2. 前処理:砂や細かな濁りなどを取り除き、RO膜を傷めにくいきれいな状態に整えます
- 3. 逆浸透(RO):高い圧力をかけて海水をRO膜に通し、淡水と濃縮海水に分けます
- 4. 後処理:飲み水として適した水質に整え、消毒などを行います
- 5. 送水:浄水場や配水施設を経て、水道水として各家庭に届けられます
ポイントは、淡水をつくると必ず「濃縮海水」も生まれるという点です。この濃縮海水をどう扱うかは海水淡水化に共通するテーマで、後述する「まみずピア」では有効利用の取り組みが公式サイトで紹介されています。
日本の実例①:まみずピア(福岡地区水道企業団 海水淡水化センター)
1つめの実例は、福岡地区水道企業団が運営する海水淡水化センター、愛称「まみずピア」です。公式サイトには「最大生産能力 50,000立方メートル/日」と記載されています(福岡地区水道企業団公式サイト・2026年8月調査)。

海底の砂を活かす「浸透取水方式」
まみずピアの特徴として公式サイトに挙げられているのが「浸透取水方式の採用」です(福岡地区水道企業団公式サイト・2026年8月調査)。浸透取水とは、一般に、海水を海から直接くみ上げるのではなく、海底の砂の層をゆっくり浸透させながら取り込む方式を指します。砂の層が天然のフィルターの役割を果たすため、膜処理の前段階で水をきれいな状態にしやすい取水方法として知られています。
高圧RO膜+低圧RO膜の二段構え
膜処理についても特徴があります。公式サイトには、高圧RO膜に低圧RO膜を加えることで、より良質な水を生産すると記載されています(福岡地区水道企業団公式サイト・2026年8月調査)。海水から淡水をつくる高圧のRO膜処理に、低圧のRO膜処理を組み合わせる二段構えで、水質をさらに高める構成です。
総生産水量は2億立方メートルに到達、濃縮海水は有効利用へ
公式サイトによると、まみずピアの総生産水量は2025年3月時点で2億立方メートルに到達しています(福岡地区水道企業団公式サイト・2026年8月調査)。長い期間にわたって淡水をつくり続け、地域の水道を支えてきたことが分かる数字です。
また、淡水化の過程で生まれる濃縮海水(塩分濃度約7〜8%)についても、その有効利用を推進していることが公式サイトで紹介されています(福岡地区水道企業団公式サイト・2026年8月調査)。淡水をつくった「残り」を資源として活かそうという取り組みで、海水淡水化の課題に正面から向き合う姿勢がうかがえます。
日本の実例②:沖縄県企業局の海水淡水化センター
2つめの実例は、沖縄県企業局の海水淡水化センターです。公式サイトには「1日当たり約4万立方メートルの淡水をつくることができます」と記載され、方式については「企業局では、逆浸透法を採用しています」、稼働時期については「平成9年から全面稼働しています」と明記されています(沖縄県企業局公式サイト・2026年8月調査)。平成9年からの全面稼働ですから、四半世紀を超えて動き続けている、実績のある施設です。
つくった淡水は北谷浄水場でブレンドされて水道水に
沖縄の海水淡水化センターでつくられた淡水は、そのまま蛇口に届くわけではありません。公式サイトによると、淡水は「北谷浄水場の浄水池へと送られ」、「浄水場で処理した水とブレンドし、よりおいしい飲み水に適した水となって、各地に水道水として供給」されます(沖縄県企業局公式サイト・2026年8月調査)。
海水由来の淡水を単独で使うのではなく、浄水場で処理した水と混ぜ合わせて水道水に仕上げる。この「ブレンド」という運用は、海水淡水化が既存の水道システムの中に組み込まれて働いていることを示す、分かりやすい例といえます。
公式サイトでは、この施設の役割を、季節や天気に左右されない安定的な水資源の確保と位置づけています(沖縄県企業局公式サイト・2026年8月調査)。雨が少ない時期でも海水はなくならないため、天候に依存しない水源として機能するわけです。
2施設を並べてみると
| 項目 | まみずピア(福岡地区水道企業団) | 沖縄県企業局 海水淡水化センター |
|---|---|---|
| 生産能力 | 最大生産能力 50,000立方メートル/日 | 1日当たり約4万立方メートル |
| 方式 | 逆浸透(高圧RO膜+低圧RO膜の併用) | 逆浸透法 |
| 取水・供給の特徴 | 浸透取水方式を採用 | 淡水を北谷浄水場へ送り、処理した水とブレンドして供給 |
| 公式サイト記載のトピック | 総生産水量2億立方メートル到達(2025年3月時点)・濃縮海水(塩分濃度約7〜8%)の有効利用を推進 | 平成9年から全面稼働・季節や天気に左右されない安定的な水資源の確保 |
2施設に共通するのは、いずれも逆浸透を採用し、地域の水道システムの一部として日常的に稼働している点です。一方で、海底の砂層を活かした取水と二段のRO膜で水質を追求するまみずピア、浄水場でのブレンドを前提に安定水源としての役割を担う沖縄と、施設ごとの個性もはっきりしています。

家庭の「RO水」と海水淡水化はつながっている
ここまで読んで、「RO膜」という言葉をウォーターサーバーや浄水器の説明で見たことを思い出した人もいるかもしれません。実は、海水淡水化で使われている逆浸透の原理は、家庭向けの浄水にも使われている、身近な技術です。
RO膜でろ過した水は「RO水」と呼ばれ、ウォーターサーバーの水の種類としても定番の一つです。RO水と天然水がどう違うのかは、RO水と天然水の違いの記事で詳しく解説しています。
また、浄水器やウォーターサーバーが「何をどこまで除去できるか」という考え方については、浄水できる物質の整理の記事が参考になります。海水から飲み水をつくるスケールの大きな話と、台所の浄水は、同じ「膜で水をきれいにする」技術の延長線上にあるわけです。
海水淡水化のよくある疑問
取り除いた塩分はどうなるの?
淡水と分けられた塩分は、濃縮海水として残ります。その扱いは施設ごとに異なりますが、まみずピアでは、塩分濃度約7〜8%の濃縮海水の有効利用を推進していることが公式サイトで紹介されています(福岡地区水道企業団公式サイト・2026年8月調査)。淡水化の「残り」をただ処分するのではなく、資源として捉える発想です。
どうして全国どこにでも造らないの?
逆浸透法では、浸透圧を上回る強い圧力をかけ続けるためのエネルギーが必要です。川やダムといった従来の水源を十分に確保できる地域では、まず既存の水源を活かすのが自然な選択になります。海水淡水化が力を発揮するのは、水源が天候に左右されやすい地域や、水源の選択肢を増やして備えを厚くしたい地域です。実際、沖縄県企業局は自局の施設の役割を、季節や天気に左右されない安定的な水資源の確保と位置づけています(沖縄県企業局公式サイト・2026年8月調査)。
淡水化した水は、そのまま蛇口に届くの?
施設や運用によって異なります。本記事で紹介した沖縄の例では、つくられた淡水はいったん北谷浄水場へ送られ、浄水場で処理した水とブレンドされたうえで、水道水として各地に供給されます(沖縄県企業局公式サイト・2026年8月調査)。海水淡水化は単独で完結する仕組みではなく、浄水場や配水網を含む水道システム全体の一部として働いている、と理解しておくとよいでしょう。
まとめ:海水淡水化は「もしも」に備える現役の水源
- ・海水淡水化の中心技術は逆浸透(RO)法で、浸透圧を上回る圧力をかけて海水をRO膜に通し、淡水と濃縮海水に分けます
- ・福岡の「まみずピア」は最大生産能力50,000立方メートル/日で、浸透取水方式と高圧+低圧RO膜の併用が特徴。総生産水量は2025年3月時点で2億立方メートルに到達し、濃縮海水の有効利用も進められています(福岡地区水道企業団公式サイト・2026年8月調査)
- ・沖縄県企業局の海水淡水化センターは1日当たり約4万立方メートルの淡水をつくることができ、平成9年から全面稼働。淡水は北谷浄水場で処理した水とブレンドされ、水道水として供給されています(沖縄県企業局公式サイト・2026年8月調査)
水道の蛇口の向こう側には、ダムや川だけでなく、海を水源にする施設もある——。日本の水インフラの層の厚さを感じられるテーマとして、海水淡水化はもっと知られてよい存在だと思います。本記事の記載は2026年8月時点の各公式サイト調査にもとづくため、最新の情報は下記の出典をご確認ください。
出典
- ・福岡地区水道企業団「施設紹介:海水淡水化センター(まみずピア)」(2026年8月調査)
- ・沖縄県企業局「海水淡水化センター」(2026年8月調査)