空気製水(AWG)とは?仕組み・製水量・飲用の扱いを基礎から解説
「空気から水をつくる」と聞くと、少し現実離れした話に思えるかもしれません。けれど原理そのものは、夏の日に冷えたグラスの表面に水滴がつく「結露」と地続きです。
空気製水(AWG=Atmospheric Water Generator)は、空気中に含まれる水蒸気を集めて、液体の水として取り出す装置の総称です。日本語では空気製水機、大気水生成装置などと呼ばれます。
結論を先に書きます。AWGは水道の代わりになる装置ではなく、前提の異なる水の確保手段を一つ増やす装置です。ここを取り違えなければ、検討はずいぶん見通しがよくなります。
この記事では、仕組み・性能を左右する条件・飲用に使う場合の確認事項を、公的機関の資料と査読誌の論文を示しながら整理します。特定の製品をすすめる記事ではありません。
空気製水(AWG)とは何か
まず押さえておきたいのは、AWGが水を「無から作り出している」わけではないという点です。空気の中にもともと存在している水蒸気を、集めて液体に変えているだけです。原料は空気中の水分であり、そこにない水を取り出すことはできません。
この一点を押さえておくと、後述する「湿度が低いと製水量が落ちる」「電力を使う」といった性質が、例外ではなく原理どおりの結果だとわかります。

身近な結露との違いは「制御しているかどうか」
空気が冷えていくと、含んでいられる水蒸気の量は小さくなります。ある温度まで下がると水蒸気は入りきらなくなり、余った分が水滴として現れます。この温度が露点です。冷えたグラスに水滴がつくのは、触れた空気が露点以下まで冷やされるためです。
AWGはこの現象を装置の中で意図的に起こし、生じた水滴を集めて、ろ過や殺菌を加えたうえで取り出します。エアコンや除湿機からドレン水が出るのと、物理的には同じ土俵の話です。
ただし、除湿機やエアコンから出るドレン水をそのまま飲むことはできません。熱交換器・配管・ドレンパン(受け皿)は飲用を前提に設計も洗浄もされておらず、雑菌やカビ、部材由来の成分が混ざり得るためです。AWGとの違いは、まさに「飲むことを前提に、どこまで衛生設計と水処理を組み込んでいるか」にあります。

AWGはどうやって空気から水をつくるのか
製品によって工程数も処理方法も違いますが、大枠は次の流れです。
このうち3番目の「水蒸気をどうやって捕まえるか」で、方式が大きく2つに分かれます。
冷却式(コンプレッサー式)— 空気を露点以下まで冷やす
取り込んだ空気を冷媒サイクルで露点以下まで冷やし、結露させて水を得る方式です。エアコンや除湿機と同じ原理で、部品も広く流通しているため、製品の選択肢が多いのが特徴です。
一方で、空気を冷やすという仕事が必要になるため、空気に含まれる水分が少ないほど、水1リットルあたりにかかる手間(=電力)は大きくなります。
吸湿式(デシカント式・吸着式)— 吸湿材に吸わせて加熱で取り出す
シリカゲルやゼオライトのような吸湿材(デシカント)に空気を通して水分を吸わせ、そのあと吸湿材を加熱して水分を放出させ、それを冷やして回収する方式です。
湿度が低い環境でも水分を捕まえられる点が冷却式との大きな違いで、研究レベルでは乾燥地帯を想定した実証も行われています。米マサチューセッツ工科大学などの研究チームは、金属有機構造体(MOF-801)を用いた装置により、相対湿度10〜40%・露点が氷点下という米アリゾナ州テンピの乾燥した気候のもとで、1日1サイクルあたり吸着材1kgあたり0.25リットルを超える水を得たと報告しています(Nature Communications、2018年)。
ただし吸湿材を再生(加熱)するためのエネルギーが必要で、装置全体の消費電力は、方式や熱源の取り方によって変わります。
「どちらが優れているか」ではなく「どの環境に合うか」
2つの方式は優劣の関係ではありません。温暖で湿度の高い環境なら冷却式が効率よく働きやすく、乾燥した環境では吸湿式の考え方が生きます。設置場所の気候と電源・熱源の事情のほうが、方式選びを実質的に決めます。

AWGの製水量と電力は、環境で大きく変わる
AWGの検討で最もつまずきやすいのが、この点です。「1日◯リットル」という数字だけを見て導入すると、期待と実際がずれます。

空気に含まれる水分は、季節で大きく動く
気象庁の平年値(1991〜2020年の30年平均)によると、東京の月平均相対湿度は7月の76%が最も高く、1月の51%が最も低く、年平均は65%です。同じ場所・同じ装置でも、冬と夏では前提となる空気の状態がまるで違います。
しかも相対湿度は「その気温で含みうる量に対する割合」です。気温が低ければ、同じ相対湿度でも空気中の水分の絶対量は少なくなります。冬に製水量が落ちやすいのは、湿度と気温の両方が下がるからです。
水1リットルあたりの電力にも大きな幅がある
学術誌 Environmental Research: Infrastructure and Sustainability に掲載された2023年の研究(Brenes・Chini)は、市販のAWG複数機種について、気象データをもとに水1リットルあたりのエネルギー消費(エネルギー原単位)の変動幅を試算しています。報告された範囲は次のとおりです。
- ・冷却式の機種A:0.13〜3.64 kWh/L
- ・冷却式の機種B:0.02〜2.68 kWh/L
- ・吸着式のパネル型:3.19〜5.29 kWh/L
同じ装置でも、置かれる場所と季節によって1桁以上の開きが出るということです。同研究は、冷却式では相対湿度よりも気温のほうが性能への影響が大きく、暖かく湿った環境で最も効率よく動くとしています。
「1リットルあたり何円か」を先に決め打ちできないのは、このためです。電気料金の単価を掛ける前に、まず設置予定地の気温と湿度を確かめる必要があります。
カタログの「1日◯リットル」には条件がついている
メーカーが示す製水能力は、特定の温湿度条件での定格値です。たとえば家庭・オフィス向けのサーバー型「エアリス」は、公式サイトで定格製水能力を12L/日とし、その条件を「気温27℃、相対湿度60%」と明記しています。消費電力は製水時・冷却時400W、待機時最小5W、熱湯利用時最大800Wと公表されています(いずれも2026年7月時点の公表値。製品仕様は改訂されることがあるため、検討時は各社の最新資料をご確認ください)。
条件が書かれていない数字は比較に使えません。カタログを見るときは、まずその数字が何℃・何%のときの値なのかを探し、自分の設置環境と近いかどうかを確かめてください。

「引く」「ためる」「生み出す」— 三つの手段は前提が違う
AWGの位置づけを考えるときは、他の手段と並べてみるとわかりやすくなります。
首相官邸は災害への備えとして、飲料水を「3日分(1人1日3リットルが目安)」備蓄することを挙げ、あわせて「飲料水とは別に、トイレを流したりするための生活用水も必要です」としています。
この三つは、成立する前提がそれぞれ違います。水道は浄水場と配水管が生きていること、備蓄は保管場所と入替え管理が回ること、AWGは電源と空気中の水分があることが前提です。前提が違うということは、三つが同時に倒れる可能性は低いということでもあります。備えを多重化する意味はここにあります。
逆にいえば、AWGだけを増やしても「電源が落ちたら止まる」構図は変わりません。AWGは水道の置き換えではなく、水道・備蓄と組み合わせて初めて意味を持ちます。そのうえで「自分たちの施設に合うのか」を判断する軸は数が多く、別記事で整理しています。→ AWGが向く施設・慎重に検討すべき施設の考え方
AWGの水を飲用に使うときに確認すること
ここは、この記事でいちばん慎重に書く必要がある部分です。AWGでできた水をそのまま飲用に使えるかどうかは、装置・用途・設置形態によって変わり、一律に断定することはできません。実際に飲用へ供するなら、水質検査・衛生管理・所管部署への確認を前提としてください。
日本で「飲める水」に関わる制度としては、少なくとも次の三つが関係します。どれが適用されるかは施設の用途と規模によります。
水道法の水質基準
水道により供給される水は、水質基準に適合することが求められます。環境省の公表資料によれば、基準は現在52項目で定められ、これとは別に水質管理目標設定項目が26項目、要検討項目が46項目あります。
なお、厚生労働省が所管していた水道整備・管理行政は、令和6年(2024年)4月に国土交通省・環境省へ移管されました。以前の資料を参照する際は、所管が変わっている点に注意してください。
食品衛生法の「食品製造用水」
飲食店や食品工場のように、食品の製造・調理に水を使う場合は、食品衛生法に基づく「食品、添加物等の規格基準」の考え方が関わります。水道水などによる供給以外の水を使う場合には、指定された26項目の基準に適合することが求められます。
建築物衛生法(ビル管法)
店舗・事務所・学校などの用途に使われ、延べ床面積が3,000平方メートル以上の建築物は「特定建築物」にあたり、建築物環境衛生管理基準に沿った維持管理が義務づけられます。給水についても、貯水槽の清掃を1年以内ごとに1回行うこと、水質検査を定期的に実施すること、給水栓における遊離残留塩素濃度を0.1mg/L以上に保つことなどが定められています。こうした施設にAWGを置くなら、既存の給水管理体制の中でどう位置づけるかを先に整理しておく必要があります。
メーカーの水質検査結果は「その条件での結果」
メーカーが自社製品の水について検査結果を公表していることがあります。前出の「エアリス」も、フィルター製造会社が任意で51項目の水質検査を行い、全項目をクリアしたと公式サイトに記載しています(2026年7月時点の公表内容)。
こうした情報は判断材料になりますが、それはその装置・そのフィルター・その環境での結果です。空気の状態、フィルターの交換状況、タンクの清掃頻度が変われば、出てくる水も変わり得ます。導入後の定期検査と衛生管理をセットで考えてください。最終的に「この水を、この用途で使ってよいか」を判断するのは事業者自身と保健所など所管部署です。導入を決める前に相談しておくのが確実です。
日本ではどんな場面で使われているのか
AWGは研究段階だけの技術ではなく、国内にも設置例があります。
高知県中土佐町では、指定避難所である町立久礼小学校に、株式会社アクアムの中型空気製水機「AQ200」が導入されました。指定避難所への空気製水機の設置は国内初と報じられています。この機種は除湿・空気清浄を行いながら、1日平均で200リットル、最大300リットルを製水するとされています(2020年の報道時点の公表値)。
家庭・オフィス向けには、前出の「エアリス」のようにウォーターサーバーの形をした小型機も販売されています。共通しているのは、「その施設で使う水をすべてまかなう」設計にはなっていないことです。避難所なら飲用の一部、オフィスなら日常の飲用と非常時の予備、というように用途を絞った位置づけになっています。
検討を始める前に決めておきたい三つのこと
AWGの検討には、機器選びより先に答えを用意しておきたい問いがあります。
- ・どの用途の水を守るのか:飲用・手洗い・清掃では必要な水質も量も違う。一台ですべてをまかなおうとすると設計が破綻しやすい
- ・電源をどう確保するのか:停電時にも動かすなら、非常用電源の容量・燃料・切替手順と担当者まで含めた設計が要る
- ・誰が、どの頻度で保守するのか:フィルター交換やタンク清掃が個人の善意に依存していると、いずれ止まる
ここまで整理できたら、次は施設の条件と照らし合わせる段階です。判断軸は向く施設・向かない施設の考え方をまとめた記事で詳しく扱っています。
よくある質問

除湿機やエアコンから出る水は飲めますか
飲用には適しません。これらの機器は水をつくることを目的に設計されておらず、空気の通り道・熱交換器・受け皿のいずれも飲用を前提とした衛生管理がされていないためです。AWGと除湿機の違いは、原理ではなく「飲むための設計と処理があるかどうか」にあります。
空気製水の水にミネラルは含まれますか
原料が空気中の水蒸気である以上、地層由来のミネラルはほとんど含まれず、硬度の低い軟水になります。製品によっては、後段でミネラル分を加える処理を備えるものもあります。ミネラルがどこから来るのかに関心のある方は、地層を通って湧き出す水を扱った東京の名水をまとめた記事が対比として参考になります。
電気代はどれくらいかかりますか
装置と環境で幅が大きく、一律の目安は示せません。試算するなら「その装置の、その環境でのkWh/L」×「電気料金の単価」×「必要なリットル数」という組み立てになります。前掲の研究が示す0.02〜5.29kWh/Lという値は、複数機種と気候の違いを含んだレンジであり、特定製品の実測値ではない点にご注意ください。
まとめ
- ・AWGは空気中の水蒸気を集めて水にする装置で、水を無から作る装置ではない
- ・方式は冷却式と吸湿式に大別され、優劣ではなく設置環境との相性で選ぶ
- ・製水量も消費電力も温度・湿度で大きく変わる。カタログ値は条件付きの数字
- ・水道の代わりではなく、前提の違う確保手段を一つ増やすもの
- ・飲用に供するなら、水質検査・衛生管理・所管部署への確認が前提
この記事は2026年7月時点の情報で作成しています。制度・数値は改定されることがあるため、実際の判断にあたっては出典元の最新の記載をご確認ください。編集方針と運営者については運営者・編集方針のページをご覧ください。
参考・出典
- ・気象庁「東京(東京都)平年値(年・月ごとの値)」(統計期間1991〜2020年)
- ・環境省「水質基準項目と基準値(52項目)」
- ・国土交通省「コラム 水道整備・管理行政の移管について」
- ・三重県「食品取扱施設で使用する水について」(食品、添加物等の規格基準)
- ・大阪府「特定建築物の衛生的管理について」/東京都健康安全研究センター「特定建築物の衛生管理基準」
- ・首相官邸「災害が起きる前にできること」
- ・A. T. Brenes, C. M. Chini, Environmental Research: Infrastructure and Sustainability(2023年)
- ・H. Kim ほか, Nature Communications(2018年)
- ・エアリス公式サイト(製水能力・消費電力・水質検査の記載)
- ・AXIS「アクアムの『空気から水をつくる』空気製水機 指定避難所に国内初導入」(2020年)
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